その日私は仕事の出張の為、上司と2人で福井に来ていた。
仕事も上手くいき、お客さんに福井オススメのお店に連れて行ってもらい、美味しい夕飯とお酒をご馳走になった。初めての出張で緊張していた私は、ホテルでゆっくり休み明日に備え、すぐ寝るはずだった。はずだったのだが……。
いつも厳しい上司が「ご褒美に」と、私を優しく部屋に招き入れた
何故か私は上司の部屋に呼ばれた。今日の仕事で何かミスをしたのか。怒られるのかと緊張して上司の部屋に入ると、テーブルの上にデザートが置かれていた。
「お疲れ様。頑張ったからご褒美に、一緒に食べよう」
そういって上司は私を招き入れた。
一回り以上も年上で、既婚者の上司を男として見た事など1度もない。プライベートでご飯に行ったこともなければ、日々上司に怒られているくらいだ。
そんな上司が、今日は優しい。本当に私は、今日の出張での仕事が上手くいったんだと思い、その労いをしてくれているんだろうと思った。
上司とお客さんに挟まれた夕飯は、緊張であまり味わえなかったが、この部屋に置かれたコンビニのミニパフェは夕飯以上に美味しく感じられた。デザートを2人で食べながら、他愛もない話をしていた。お酒が入っていた為に、私は猛烈に眠くなり、いつの間にか上司の部屋のベットで寝てしまった。
上司の予想外の反応に脳がフル回転したけど、私は受け入れるしかない
しばらくすると、何か顔に当たる感触がした。薄ら目を開くと、なんと上司が私にキスをしているではないか。この時の私は、酔って眠気があったにも関わらず、脳がフル回転で回っていた。
(何故この人は私にキスをしているのか?私が知らないうちに合意したのか?そもそも部屋に上がり込んだ私が悪いのか?ここで拒絶した時の私の立場はどうなる?今後仕事が出来なくなるのではないか?普段から怒られてるのに、それ以上に酷い扱いされるのではないか……)
考えること数秒、とりあえず目を覚まし、笑って誤魔化す作戦に出た。
「部長、酔ってるんですか?」
これが1番無難であろう言葉を発し、今後の相手の出方をみる。
酔ってた事にされるのか、なかった事にされるのか、私のせいにされるのか、そんな予想をしていると
「ごめんね。前から気になってて、可愛いし仕事頑張ってていいなって思ってて」
(おっとこれは予想外……)
1番考えてない相手の反応に、余計私は戸惑った。それでも私は、今の職場を辞める事だけは出来ない。今以上に、職場での自分の立場を悪くしたくない。それしか頭になかった。そんな私は……上司を受け入れるしかなかった。
私はあの夜不倫をした。自分の立場を悪くしたくなかったから
世の中の不倫する男女は、どういった経緯にせよ、恋愛感情があるもんなんだろう。しかし私のような状況になったら、力のない立場の人間はどうするのが正解なのだろうか。
とにかく、私はあの夜不倫をした。自分の立場を悪くしたくなかったから。
それからというもの、上司は私を怒るようなことはなくなった。むしろ私の肩を持つような態度が多く見られ、私としては仕事がより上手くいくようになった。
もちろん、体を求められれば受け入れた。これは、仕方のない事だと自分に言い聞かせて。あの夜、私はどこから間違えたのだろうか……。