「友達から恋人に」って良く聞くけど、「恋人から友達に」ってなれるのかな。
きっかけは成人式の日、小学校での同窓会。お酒が飲める歳になって、地元が同じだった私たちは、同窓会の後も数人のグループで頻繁に遊ぶようになった。
地元が同じだと終電をなくすこともなく、夜中や急に集まったりすることも珍しくなった。
ある日の夜、ゲームに負け続けて飲み過ぎた私を、彼が家まで送ってくれた。酔いが回りながらも「あぁ、私この人好きだな」と思っていた。
思っていたら、口に出していた。あの日の夜、私たちは友達から恋人になった。

友達から恋人へ。楽しくて楽しくて、ただ幸せだった

当時頻繁に集まっていたため、会う頻度は変わらなかった。気を遣われたくないという理由で、みんなには恋人になったことを秘密にしていた。帰り道、「友達と恋人の違いって何だろう」そう聞いたら、「こういうことじゃない?」と手を繋いでくれた。
誕生日が一日違いだった私たち。いつものグループで旅行して、みんなに祝ってもらった。

みんなが眠った後、二人で宿を抜け出して、湖の前でキスをした。いつもは名字で呼び合っているけど、二人になると名前で呼び合えるのが嬉しかった。
あの日の夜、好きだと伝えて良かった。好きになって良かった。楽しくて、楽しくて、ただ幸せだった。 後日、改めて二人だけで誕生日をお祝いした。お揃いの指輪を作って、背伸びしたホテルのレストランで食事して、初めて、二人だけでベッドに入った。

「友達に戻りたい」。その夜のことを何度も後悔した

三日後、彼から友達に戻りたいと告げられた。分かっていた。話したいことがあると呼び出されたとき、そんな予感がした。誕生日を祝った夜、当時経験がなかった私は、恋人としか出来ない行為を拒んでしまった。言い訳にしか聞こえないかもしれないが、自分の体型にコンプレックスを抱えていたため、嫌われるのが怖くなったのだ。
当時の私は、友達から恋人になったように、恋人から友達になるのも簡単だと思っていた。
でも、もう彼は私を名前で呼ぶことはない。手を繋ぐこともない。指輪を付けることもない。
そのことが分かったとき、涙が溢れてきた。「勇気を出して、自分を曝け出していたら、まだ恋人でいたのかな」。「こんなにも悲しくて痛くて辛い思いをしなかったのかな」。あの日の夜を、何度も後悔した。

彼は私を好きになることはなかった。でも少しだけあの日々を思い出す

それから私たちは就職活動が始まり、頻繁に集まることはなくなっていた。私は運が良く、第一希望だった企業に早期選考で内定をもらった。彼は浪人していたため、みんなよりも一年、学年として遅れていた。
会えばまた、私は彼に惹かれてしまう。そしてまた、より深く、傷つく。それでも会いたくなって、会えると嬉しくて、彼と連絡を取ることをやめなかった。「友達」という立場を利用して、二人で遊びにも行った。しかし、彼はもう一度私を好きになることはなかった。
今、私には彼ではない恋人がいる。彼にも、私ではない恋人がいる。夜になると少しだけ思い出してしまう。好きだと伝えた夜、初めて手を繋いだ夜、湖の前でキスをした夜。
今の彼は、私のことを愛してくれている。私も、愛している。でも許してね、夜だから。