彼のパンツを下ろすと、毛がなかった。
たくさんあるはずのものが、そこになかった。
ほぅ、これは……!
手を止めた私を見て、彼は少し笑っていた。
歳は2つか3つくらい下の大学生で、居酒屋で飲んでプリクラを撮って流れでベッドインした夜だった。

彼のアンダーヘアを黙って眺めた。意外にも違和感はない

この世には、アンダーヘアを処理している人がいるということは噂には聞いていた。
海外では多く、日本でも段々と増えているという。
テレビやネットで赤裸々に発表する人もいた。
しかし、見たことがない。
ラブホテルでよろしくどうぞする人も、銭湯でこんにちはどうもする人も、誰一人としてそういった状況の人はいなかった。
私は黙って眺めた。
意外にも違和感はない。
彼が若かったということもあるかもしれないが、とても瑞々しく清潔感が溢れていた。
お仕事や趣味で際どい衣装を着るために処理しているのなら理解できるが、そういったことがない一般人が処理している理由が思いつかない。
聞いていいのか迷ったが、聞かずに続行して集中できる気がしなかったので、どうしてそこには何もないのか聞いた。
友達と罰ゲームで始めて、そこから快適さに気付き、ずっとこの姿だと答えてくれた。
男子大学生ってそんなお笑い芸人さんみたいなことをするのかと驚いた。
自分でカミソリを使い剃っているらしい。
なんて…危ないことを……!
手元が狂い、毛だけではなく大切なものも剃り落としてしまったらどうするのかと、本気で心配した。
それよりも引っかかっていることがある。
快適、とさっき言っていた。
快適?快適な訳がなかろう!
外気へダイレクトにデリケートゾーンを晒すなんて、何だかヒュッとなるに決まっている。
四六時中ヒュッとなりながら生きていくなんて考えられない。考えたこともない。
その後も致したことは致したが、何も覚えていない。記憶がない。
正直、彼の名前も顔も全然思い出せない。
思い出せるのは、光り輝いたデリケートゾーンだけだ。

快適という言葉が心を掴み、寝ても覚めても考えるのはそのことばかり

何日経っても頭から離れなかった。
彼のことではない。寝ても覚めても彼のアンダーヘアのことを考えた。
快適という言葉が私の心を強く掴んだ。
もう我慢が出来なかった。カミソリを手にして、そこからは一瞬だった。

次の日から、部屋の掃除をしてもちぢれた毛が落ちているとこはなくなった。
どうしてこんなところにいるんだい?と、どう考えても落ちているはずがないような場所でイラッとしながら毛を拾うこともなくなった。

詳しく調べると、カミソリ等で自己処理をすることは危ないし、肌を痛めるからしない方がいいとのことだったので脱毛サロンに通い始めた。
通常の人達は脇や腕・脚など、人目につくところからスタートするのに、私はアンダーヘアのことで頭がいっぱいだった。
サロンのスタッフの綺麗なお姉さんに、「VIOからですか?VIOのみですか?」と確認された。
「ええ!私はもうここを綺麗になくすことができたら他に何も要らないのです!」と話した。
そこからあまり目を合わせてもらえなかったような気がした。それでも私は止まらなかった。
ツルツルに!ツルツルに!全部なくすぞツルツルに!と、私のなかでアンダーヘア消滅させ隊が行進をし続けた。

ツルツルを手に入れた今、羽根が生えたかのように快適でヒュッもない

何年か経ち、ついに念願のツルツルを手に入れた。
快適という言葉が理解できた。すっきりしている。軽い。背中に羽根が生えたかのように歩けた。蒸れない。
何だかヒュッとなるようなこともなかった。パンツがあるからだ。
何の壁もなくヒュッとなり、外気に触れるようなことなどない。あったら捕まる。

私はあの夜から歩み続け、まっさらなデリケートゾーンを手に入れた。
彼に出会えていなかったら毛について考えることもなく、この世界の過ごしやすさに気付くこともなかっただろうと確信している。
もしかしたら死ぬ間際に頭に浮かぶのは、家族の顔や楽しかった日のこと、そしてあの麗しい彼のアンダーヘアのことかもしれない。