今から遡る事、約11年前の夏。今でもたまに思い出す一言がある。

「○○、お前髭生えてるぞ」

それは給食の時間だった。向かい合って食べている時に前に座った男の子が自分の鼻の下をさし、私にジェスチャーを使って指摘した。
私の仲のいい友達も近くにいて、顔が赤くなるほど恥ずかしい言葉だった。

プライドをかなぐり捨てるほど恥ずかしかった体毛の指摘

当時は徒党を組むと私がリーダーのような雰囲気になるくらい、強気な大人びた性格だったのでそれなりにプライドも高かった。
そんなプライドもかなぐり捨てるくらいに、休み時間に急いで鏡を見に行った。これまで気にしたことがなかったのに、どうしよう、恥ずかしい、恥ずかしい…!
小学5年生といえば少しずつ思春期に入っていくデリケートな年齢。ホルモンバランスの関係から体毛が濃くなり始める子もいる。
トイレのドアの外からは女の子たちが「お母さんと脱毛に行ってきた」と話す声がしたり、ちらほらと周りの脱毛話は聞いていた。

私は家に帰って、まだ自分で剃るのは怖かったので母にシェーバーで剃ってもらうことにした。母まで私のことを「ヒゲマロ」なんて変なあだ名をつけて呼んで、からかった。
「母には従う」と当時は子供が故の忠誠心があった為、笑って受け流すしかなかったが、今言われたらめちゃくちゃにヒステリーを起こして反論すると思う。

あの頃、毛を剃ることは恥ずかしくてデリケートな話題だった

次の日、髭を剃ってもらったのが功を奏したのだろう。男の子は何も言ってこなかった。
ちょっと剃っただけでこんなあっさり何も言わなくなるものか…?と思うも、指摘してもらって良かったのかもしれないと思った。
その後足の毛や脇毛、腕の毛も濃くなり出して、気になって今度は母に頼らず自分でお風呂場で剃るようになった。異性である父に「あれ?足こんなに毛生えてなかったっけ?」と言われた時は何故か耳まで赤くなるくらいに恥ずかしかった。

今思うと毛を剃るという単純なことが何故そんなに恥ずかしく思えたのかが理解できないのだが、当時の私にとってはとてもデリケートな話題だったようだ。
早い子ならもっと早い頃から自分で気付き、処理をしていたのだろう。
小5まで毛の処理をしていなかったのには理由がある。母から「あまり分からないから剃らなくてもいい。剃るとチクチクして剛毛になるよ。」とずっと言われていたからだ。
たしかに母の足を触るとチクチクして棘のようだった。
その時は「そっか、更に剛毛になるならやめておこう」と素直に受け取ったが、流石に他人に指摘されるくらいまで放っておいた私も鈍感過ぎたのかもしれない。

あの一言は心に一生刻まれ、感謝とも感謝でもない複雑な感情抱えている

今では当たり前の脱毛処理。あの一言を放った彼は今何しているんだろう
男の子は剃らなくてよくてなぜ女の子だけ剃らなければいけないのだろう?と理不尽な現実に疑問を持ったりもした。でもそんな事は一瞬だった。
あれからというもの、今もいつも当たり前に毛を処理している。
サロン脱毛に行くお金はないので、この間レビューが良い家庭用の脱毛器を購入した。毛問題。女性は誰しもが遅かれ早かれ直面すると思う。
私にそれを突きつけられたのは小5の夏だった。
確実に私を変えた一言を放った彼は今頃どこで何をしているだろうか。
感謝でもあり、感謝でもないこの複雑な感情はきっと死ぬまで刻まれる事だろう。