どうしても欲しい服があった。
頭の中にちゃんとイメージはあるのに、それ通りの服ってあんまりない。
でもぐるぐる探して、最後は意外なところで出会ったりする。

カメラで夏を切り取る。ドレスコードは白いワンピース+麦わら帽子

私は写真を撮るのが昔から好きで、やっと欲しかったカメラを手に入れた。
フィルムカメラのCanon AE-1。
フィルムを装填するのが楽しいし、何より写りがすごく好きだ。
今年はこのカメラでたくさん写真を撮ろうと思っていた。
季節はちょうど夏で、私の一番好きな季節。暑いけれど、このカメラで大好きな夏を切り取れるなんて最高!と息巻いていた。
そして幸いなことに、カメラを通じて繋がった楽しい友達もいて、一緒に写真を撮りに行く楽しさを知り始めた時期でもあった。

そんな中、ふいに友達と「海に行こう」という話が出て、私は頭を抱えた。こんな最高なことあっていいんだろうか。私が考える中で一番最高の夏の過ごし方だった。
理想は、白いワンピース+麦わら帽子。
そのことを友達に伝えると、じゃあみんなでその格好をしていこうということになった。
楽しみすぎて、その日私は自分の部屋で少し踊った。

どうせだったら、妥協せず運命の一着を見つけたいのに、見つからない

でも考えてみると私は白いワンピースなんて持っていなくて、次の仕事の休みの日に買いに行った。
どうせだったら妥協せずに、お気に入りの一着を見つけたい。
海に似合う素敵なワンピースのイメージをして、白いワンピースが置いてそうなお店全てに入ることにした。
二階建ての商業施設はやや店舗数も多くて、一日仕事になりそうだ。
探していくと、白いワンピースが置いてある店舗はもちろんあるけれど、丈の長さや形がなんとなく気に入らない。
いつもならどこかで妥協して買ってしまう所だけれど、でも今日は私のとっておきを探しに来たので買わずにお店を後にする。
結局この日は見つからず、一日中探したのに、というちょっと悔しい思いもあったけれど、大人しく帰ることにした。
それからどこかに出かけるたびに白いワンピースを探したけれど、なかなか運命の一着に出会うことはなかった。

いつもなら絶対通り過ぎるお店で手に取ると「あ、いい感じ」と思った

そして海に行く日も差し迫ってきて、私は今日で決着をつけるつもりで7階建て商業施設に来ていた。
入っているお店全てを片っ端から見ていく。今日で見つからなければ悔しいけれど妥協して買おう。
しばらく見ていくと、こういう雰囲気!という服は見つけるけれど、やっぱりなんとなく気に入らない。ここのボタンがなければいいのに、このベルト外せたらいいのに。ちょっとした所だけど、でも妥協したくはなかった。
2階、3階と上り5階まで来て、歩き出そうとするとさすがに足が痛くなってきていた。気合い入れてヒールで来なければよかった。
目星をつけていた5階のお店もあえなく撃沈し、これ以上自分の中で思い当たるお店はなかった。
あとは普段はあんまり入らないような系統の服を置いているお店だけれど、もう足も疲れたし、さらっと見て次のフロアに行こう。
さらさらっと見ていくと、いつもなら絶対通り過ぎるだけのお店の中で、また白いワンピースを見つけた。
まあでもこのお店の雰囲気からしてあんまりイメージ通りじゃない気もするけど……と思いつつ、かけてあるハンガーを手に持って全体を見てみて「あ、いい感じ」だと思った。
ボタンも目立たない白っぽい感じ。大きすぎず目立たない。襟元は丸くて、全体的にはシャツみたいな質感。生地は薄いけれど、ちゃんと同じ色のインナーワンピースがセットになっている。ウエストには切り替えがあって痩せて見えそうだし、丈もふくらはぎまでくらいあって結構長めだ。
あー、これ!これが欲しかったんだ私!

写真には、屈託のない笑顔の私と友人、そして夏の海と雲が映っていた

絶対にないと思っていたお店で、そして諦めかけていた時にやっと出会えたとっておきの白いワンピース。
値段は予算よりも少し高かったけれど、でもそれも気にならないくらい出会えてよかったと思った。
着ていく日はすごくドキドキしたし、周りもキラキラして見えて、一日が終わってほしくなかった。
その日の写真を見返すと、写真の中の私は屈託のない笑顔をしていた。
そして後ろには青い海と白い入道雲、隣には同じように白いワンピースを身に纏った大切な友人がいた。
あの白いワンピースはあの時より少しヨレてしまっているけれど、でも着るとまだなんとなく周りの世界が煌めいて見える。
私だけの夏のとっておきワンピース。
またとっておきの日に着て出かけたいな。