モノを大切にする人が好きだ。
お洒落な人が好きだ。
自分1人の時間を心から楽しめて、有意義に使える人が好きだ。
恋愛だけを楽しみにしないで、いろんな楽しみを持っていて、余裕がある人が好きだ。
私が変なことをしていても、無視しているフリをして見守ってくれる人が好きだ。

たったいくつかの恋愛を経験しただけなのに、私の理想はどんどん増えていく。
匂いフェチや血管フェチ、手フェチ、面食い、そっちの方が楽に思えて仕方がない。私の前には大きな１つのハードルではなく、相当な数の小さなハードルが並んでいる。
まだ22歳になったばかりなのに、恋愛に前向きではない。大学もオンラインで1年半以上通っていない。出会いがないという立派な言い訳のもと、ソロ活を大いに楽しんできた。
ああ、忙し楽しい。恋人がいたら1日が24時間では足りなくなってしまう。そんな感じに落ち着いてしまった22歳の女がここにいる。
そんな私に友だちは、「ま、恋愛は勢いとタイミングだから（笑）」と言っていた。

「あのリンガーTシャツ売れた？」。男性が聞いた服は今私の手の中に

晴れているのに涼しい風が吹き始めた夏の終わり、散歩日和だと私を呼ぶ太陽についつられて、古着屋を巡ることにした。
いつもはさす日傘を閉じて、珍しく照らされながら歩いた。洋服たちも喜んでいるように感じた。
2軒目の古着屋で、なんともかわいい水色と黄色のリンガーTを発見した。体に当てて鏡で見てみると、やはりとてもかわいい。こういうのは試着してぴったりだと必ず買ってしまう。ぴったりそうな雰囲気もある。
くそー、どうしよう、今月はピンチだけど、来月の自分に期待して買っちゃおうか、などとグダグダ悩んでいた、その時だった。
「オーナー！こんちは～！あのリンガーTシャツ売れた？」
と、男性の声が聞こえてきた。私はもちろんドキリとした。
「よっ！ゆうくん！あれまだ売れてないわ！あ、でもあの子が今持ってる！」
やっぱり私かよ！！！

このTシャツ買うような子と付き合いたくて、気にしていたらしい

この場合どうすれば良いのだろうか。でもこれ、レディースでは？
「お客さんごめんね～！この子が、このTシャツ買うような子と付き合いたいとか言ってたから、行方を気にしてただけなの！気に入ってくれたんなら全然試着してもらっていいから～！」
「オーナー！バラさないでくださいよ～（笑）」
「あ……そうなんですね（焦）。じゃあ試着させてもらいます……」
そんな仲良いんだ、すごいなと思いながら試着してみると、案の定ドンピシャだった。
買おう。
「これ買います！」
「はいよ！ありがとう！4800円になります～！ゆうくん、連絡先交換しなくていいの？」
「……オーナーそういうのは自分から言わせてください！」
「ほえ？」
「おお！」
「あの、こんな流れで恥ずかしいんですけど、連絡先交換していただけませんか？よかったら今度食事にでも……！」
「あ……はい、わかりました、大丈夫です」
そんなこんなで連絡先を交換し、そんなこんなで次の火曜日にご飯に行くことになった。

これから3回目のデート。あのリンガーTを着て行く

ゆうくんはほんとに結くんというお名前だった。
服がとても好きで、お洒落だった。着ている服が汚れないように、食事用のエプロンをちゃんとしていた。仲良くなるまではヘラヘラした感じだったけど敬語を使ってくれた。服以外にも映画やバスケが好きだと言った。自分の友だちのことをよく褒めていた。私がギャグを言うと、そんなキャラ隠してたんですか！と爆笑していた。

これから3回目のデートをする。
あのリンガーTを着て行く。
出かける前に鏡を覗くと、なんだか頬の赤い私が映っていた。
こちらは無縁だという顔をしていても、恋は急にやってくるみたいである。
偉そうに語ってた自分が恥ずかしいな、行ってきます。