あの夜、わざと彼は終電を逃した。

「この後、2人でカラオケ行かない?」と送別会の後、声をかけられた私は、推しの先輩かつ歌が上手いとの噂を聞いていたため、「はい!」と答える以外選択肢はなかった。

私と彼は、同じ職場の同じ担当の指導係と見習いという関係だった

入社1年目、1年ほど付き合っている倍くらい歳上の彼氏がいる私。同じ職場の彼女と別れて3ヶ月ほど経つ彼。私たちの出会いは、同じ職場の同じ担当の指導係と見習い。

5月に配属された時から、「かっこいいなぁ」と思っていた彼が私の指導係となった。恋愛相談もよくしてたし、見習いが解けてタッグを組んだ時も「こんなに仕事がしやすい人っているのか!」ってくらい相性がよかった(周りの人から見てもそうだったらしい)。

8月、1ヶ月ほど職場で研修を受けていた3人が元職場に戻るという事で、軽く送別会を開くことにした。名物料理を食べて、お酒を飲んで、不思議と酔いは回らなかったがすごく楽しかった。

彼らを見送り、さあ、私たちも帰るか、と改札を通る直前に「この後、2人でカラオケ行かない?」とお誘いをいただいた。私は即座に「はい!」と答えた。彼は歌が本当に上手くて、つい動画に残してしまった。時間も忘れるくらい楽しくて……。

彼と一緒にいると楽しすぎて時間を忘れてしまい、終電を逃してしまった

「私、そろそろ終電なので帰りませんか?」と言うと、彼は携帯で電車を調べはじめた。そして「俺、終電終わってるわ」と言い出したではないか。

「いやいやいや、普通終電調べてから歌うやろ!」と思いつつ、「えええ!どうするんですか?!」と終電を逃すなんてしたことがない私には衝撃的すぎて焦った。「とりあえず、帰ろうか」と言われ、ダラダラおしゃべりしながら、気づけば私の家の最寄り駅まで来ていた。

「これは家に泊めるべきなのか?でも、彼氏がいる私がそんなことをしてはいけない。じゃあ、このまま放置するのか?」と葛藤した結果、「部屋、片付けるので待っててください」と言ってしまった。

私に彼氏がいることも知っていたため、お互いに「何もなかったことにしよう」ということで、今までと変わらず接することにした(ここまで普通にできるのはすごくないか?と自分を褒めたくなるくらいだった)。

指導係だった彼とお付き合いして2年半、暖かい日々を過ごしている

元から私は、彼氏と会えない日が増え、喧嘩も増えつつあったこと、今回の罪悪感から別れを切り出した。なかなか一方的な別れを受け入れて貰えず、半年ほどかかって別れることとなった。その間も、職場の彼とはお互いに好意を持っているだろうなぁと思いつつ、白黒つかない私の恋愛相談に乗ってもらったりしていた。

今は、指導係だったあの夜の彼とお付き合いして2年半、同棲して1年が経つ。たまにすれ違うこともあるけれど、楽しいことも辛いことも支え合って、猫2匹と楽しく暮らしている。これからもきっとこの人なんだろうなぁと思いつつ、毎日が暖かい。

決して人に言えるような始まりではないけれど、周りの人に応援していただいて、羨ましがって貰えるくらいの2人になった。

初めて会った時のビビっ! 仕事の時のビビッ! 全てを繋げてくれたのが、あの夜だった。