その服は、私の一目惚れだった。

周りがオシャレする姿を滑稽に思うほど、オシャレに興味がなかった

19歳の頃の私は、少しださめの眼鏡に、スーパーの2階で安売りしていた服という適当な格好で大学に通っていた。
部活の後輩に、「先輩ってなんかモッサリした服多くないっすか?」と面と向かって言われるほど、オシャレには興味がなかった。
別にオシャレをしたところで頭が良くなるわけでもないし、身も心も美しくなるわけではないと思っていた。服装にお金を使うより、食べ物や漫画に使った方が有効だと考えていた。
周りの大学生たちが、高いヒールを履いたり、短めのスカートを履いたり、革ジャンを着たり、厚い化粧をしたりオシャレにお金をつぎ込む姿が滑稽に思えるほどだった。

そんなに異性にモテたいの?そんなにかわいく見られたいの?挙げ句の果てに、「今月お金なぁい!」なんて言っちゃって、そのオシャレ代を削れば絶対お金あると思うんだけど……と思っていた。
そんな私が、あんな高額の服をほしいというなんて、その時は思いもしなかった。

白とピンクの美しい振袖。突き動かされて私は高額な振袖を購入した

20歳の時、振袖を見に行った。成人式に着る振袖を選ぶためだ。
カラフルな振袖が並ぶ。こんなにたくさんの種類があるんだと目移りした。店員さんに勧められ、赤や緑、紫など様々な色の振袖を試着した。どれもキレイだった。
そしてふと、値札に目をやると驚いた。0の数が思っていたよりも1個、いや2個多い。振袖ってこんな値段するんだと恐ろしく感じた。
1日借りるだけでも何十万とする。買うとさらに高い。成人式の日だけ着ると思うと、ものすごくもったいなく感じた。

そんな時、当時付き合っていた彼が言った。
「あのピンクの振袖は?」
白とピンクに金色の蝶が舞う美しい振袖があった。私にはかわいすぎると思った。でも、その振袖から目を離すことができず、試着することにした。
「すげぇ、似合う」
彼がぽつりと言った。店員さんもそれに続くように褒め称えた。こんなに容姿を褒められたのは久しぶりだった。自分でも、私ってこんな姿にもなれるんだと驚かされた。

これにしよう。これを買おう。
他の服には興味がなかったのに、なぜかこの振袖はそんな私を突き動かした。
そして、思い切って購入することを決断した。
1回しか着られなかったら借りるよりもだいぶ損してしまう。
それでも、私はこの振袖がほしいと思った。
今まで、似合う似合わないなんて割とどうでもよかった。動きやすかったらいい、という考えが大きかった。

振袖なんて、見るからに動きにくい。それにかなりの高額な上、普段着れるわけでもない。でも、なぜかこの振袖は、そんな私の思いを吹き飛ばした。
髪飾りは彼が買ってくれた。振袖は特別にと母がほとんどお金を出してくれた。

私、綺麗なんだ。振袖に手を通し、着飾ることへの喜びを感じた

成人式の日、気に入った振袖に手を通し、キレイに髪をセットしてもらい化粧をした。
その姿を見た家族は「すっごくキレイ!写真を撮る!」とはしゃぎながら私の周りをぐるりと囲んだ。

そうか。私、綺麗なんだ。
オシャレに興味がなく、モッサリした格好でいいと思っていた私が、着飾ることへの喜びを感じた瞬間だった。
そこから私は、少し格好を気にするようになった。出かける時はロングスカートを履いたり、コンタクトにしたり、ポニーテールにしたり、見た目を気にするようになった。
あの振袖は、私が私を綺麗に見せたいという気持ちを芽生えさせてくれた。

振袖に対する気持ちも大きくなった。
私は、この振袖を1度で終わらせたくないと感じ、大学の卒業式にもお気に入りの振袖を着た。そして、まだ着たりないと、地元のミスの活動でもその振袖を着た。自信を持てるこの振袖を、私はまだ着ようと思っている。
同じ振袖だけど、私の成長とともに、違う気持ちで着られるお気に入りの振袖。
借りるのではなく、買ってよかった。

私の人生で1番高い服、私に綺麗をくれた服。
大切に着て、いつか……大切な人に着てもらいたいと思う。