わたしの思い出の一着は、ノースリーブのリゾートワンピースだ。
くすんだ赤地にヤシの木柄がプリントされている。2015年のゴールデンウィークにグアムを訪れた時に出会った。
それ以来、リゾート地を旅する時には欠かせない存在になった。

忖度なしの店員のアドバイスに従い、赤色のワンピースを選んだ

グアム旅行の終わりが見え始めた5月8日の昼下がり、わたしと友人は小さなショッピングモールへ向かった。モール内にある『Sea Shell Pink』というお店に足を踏み入れた。
ずらりと並んだリゾートワンピースやアロハシャツが、わたしたちを出迎えてくれた。自分用のお土産探しモードに入っていたわたしたちは、さっそくワンピースを物色し始めた。

友人があるワンピースを手に取って、わたしに薦めてくれた。やり取りを見ていた女性の店員さんは、心底あきれたような表情を添えて「肌の色に似合っていない」と言った。
最初はストレートな発言にびっくりしたけれど、わたしたちの質問に対して飾りのないアドバイスをくれた。遠慮や忖度を微塵も感じさせない対応には、こちらも気を遣わなくて良いから、話していて楽だった。
彼女のアドバイスに従い、わたしは赤色のワンピースを選んだ。

その夜は買ったばかりのワンピースを着て、旅行会社の方に教えてもらったレストランへ向かった。淡い黄色のチチを飲みながら、頭上から吊り下がる星型の照明を眺めた。おしゃれな内装とカクテル1杯で贅沢な気持ちに浸れた。
おろしたてのワンピースがより一層気持ちを高めてくれた、そんな気がする。

気に入っているワンピースだけど、日本ではなかなか活躍の場がない

気に入って買ったワンピースだったけれど、日本に帰国するとなかなか活躍の場がなかった。別にセクシーでもゴージャスでもグラマラスでもない、ナチュラルなワンピースなのに……。
カーディガンを羽織れば、ご近所のスーパーの買物にだって行けると思う。でも、実際には着るタイミングがなかった。ワンピースはしばらくの間、クローゼットでひっそりと過ごすことになった。

次にワンピースが日の目を見たのは、2017年のセブ島旅行の時だった。日本を発つ前日、キャリーケースに洋服を詰め込む時に、迷うことなくこのワンピースを選んだ。
ワンピースを着た日に、ホテルのロビーで写真を撮ってもらった。ワンピースのおかげで、きらびやかなシャンデリアに負けない笑顔を浮かべられた。

もしかしたら、ワンピースがわたしを旅に連れ出しているのかも

2019年の7月にはベトナムのダナンを訪れた。ベトナム屈指のリゾートに行くのだから、もちろんワンピースも連れて行くことにした。
旅行前の天気予報では雨と言われていたけれど、幸いなことに実際には天気に恵まれた。ワンピースに身を包み、世界遺産のミーソン遺跡に向かった。真上から容赦なく降り注ぐ太陽の下を、額に汗をかきながら歩いた。過酷な暑さの中でもワンピースは一緒だった。
夕方にはダナンからホイアンへ向かった。ホイアンも世界遺産に登録されている街だ。
夜が更けるにつれて、カラフルなランタンの明かりと真っ黒な闇のコントラストがはっきりしていった。くすんだ赤色を纏ったわたしは、ホイアンの夜景に溶け込むように存在していた。
このワンピースと一緒なら、異国の街さえ自分の街になるのだ。

ワンピースは次の旅を待ちわびている、クローゼットの奥で。
わたしがワンピースを旅に連れ出している、そう思ってきた。もしかしたら、ワンピースがわたしを旅に連れ出しているのかもしれない。
次はどこに連れて行ってくれるのだろう。