時は2016年。
今、世界的に猛威を振るっている新型ウイルスが流行する、ずっと前。
人々が全国各地へ旅行をし、叫んで騒いで触れ合って、そんな日常が当たり前だった頃の話。
私は、とある男性アイドルグループに夢中だった。
彼らと私は同年代で、幼い頃から芸能界で活躍している彼らとは、会ったことはなくとも、一緒に成長してきたつもりでいる。
私の青春の中にはいつも彼らがいた。

彼らの目に入らなくても、自分を一番素敵に見せる服で会いに行きたい

小学校・中学校と友達作りが苦手だった私も、高校生になった頃には、彼らのファンだったおかげで共通の話題で盛り上がれる友達がたくさん出来た。
その中でも特に仲良くなったのは、同じグループの同じメンバーが好きだった、えりな。
アイドル好きと言うと、「夢見がち」とか「盲目」などといったイメージを持たれることが多いが、「〇〇くんにこの髪型は似合わない」「この発言はプロ意識が足りない」などと、ズバズバ厳しい意見も言う彼女に好感を持ち、私たちはすぐに仲良くなった。
高校を卒業して社会人になった私たちは、一緒にコンサートに行くようになっていた。
当選が決まってからは怒涛の日々。

会場までのアクセスや、応援グッズの作成はもちろん、一番難しいのが、当日の「洋服選び」だ。
年に一度の推しに会える決戦の日には、とびっきりのおしゃれをした女の子たちが全国各地から集まる。
正直、何万円の洋服を着ていようが、1,000円のTシャツだろうが、彼らの目には入らないだろう。
頭ではわかっていながらも、ただ、
「可愛い格好で彼らに会いに行きたい!!」
それだけの気持ちで、ネットや実店舗、ありとあらゆる場所から何日も何時間もかけて、自分たちを一番素敵に見せてくれる魔法を準備する。

運命の一着が見つからず諦めかけたとき、ついに見つけたワンピース

ちょうど今くらいの時期に、私たちも運命の1着がなかなか見つからずに苦戦していた。
夏真っ盛りの暑い時期に始まったコンサートも、ツアー終盤にはすっかり涼しくなり、肌寒く感じる。
そんな秋の気候や、少し寂しげで大人な雰囲気にぴったりの洋服を探していたのだが、どこを探しても今ひとつピンと来る洋服に出会えていなかった。
「ここになかったら、ちょっと夏っぽいけど、さっきのに決めるかぁ……」
諦めかけて入った最後のお店に、運命の1着を見つけた。

色はボルドー寄りの深めの赤。
素材は上品なベロア風素材。
少し広めに開いたデコルテ。
普段着過ぎず、よそ行き過ぎない絶妙なシルエット。
まさに理想通りのワンピースに私たちは一目惚れした。

試着をさせてもらった私たちは、お互いを見て「似合ってるね」「いいじゃん!!」と思わず、微笑みあった。
見ているだけでときめく服。
この服がもっと似合うようになりたいと、コンサートまでの残りの期間はひたすら自分磨きに勤しんだ。
ダイエットや、メイク研究。
この時期だけは、芸能人も顔負けのモチベーションを発揮した。

彼らの目にはきっとペンライトの海。喜んでくれるなら黒幕になろう

コンサート当日。
部活強豪校の朝練並みの早起きをした私たちは、美容院で髪の毛をセットしてもらい、各々の研究に研究を重ねたメイクを施し、そして自慢の最高に素敵なワンピースを着て会場に向かった。
コンサートは素晴らしく楽しかった。
彼らの見せてくれる表情や演出の1秒1秒が忘れたくない瞬間だった。
そんな最高な景色を見せてくれた彼らの目に、私たちは映っていないだろう。
彼らに見えているのは、きっと……美しいペンライトの海。
十分だ。
彼らが喜んでくれるなら、喜んで黒幕の背景になろう。

せっかくの素敵なワンピース。
こんな持ち主でごめんね。
「綺麗だよ」「可愛いね」って言ってもらえなくてごめん。

あのワンピースはポーチに変身。今度は自分のために可愛くありたい

……あの頃から少し大人になった今、私たちはお互いのタイミングで彼らのファンを卒業した。
しかし、今でも当時の写真を眺めては、この時の自分たちを褒め合っている。
何十枚もの写真に収めた、最高に盛れている私たち。
写真を見るたびに、間違いなく存在したあの幸せな時間にいつでも戻ることができる。

ちなみに、すっかり着ていく場所がなくなってしまったこのワンピースだが、今は姿を変え、私の化粧ポーチとなっている。
コロナ禍になり、おしゃれをして出掛ける機会も、気合いを入れて化粧をする機会も減ってしまったが、このポーチを見るたびに、
「誰のためでもなく、自分のために最高に可愛い自分でいる努力をしよう」
と思わせてくれる。
大人になった私にはどんな服が似合うだろうか。
また素敵なお洋服との出会いがあることを楽しみに、今日も私は生きていく。