私の憧れは、ワンピースが似合う可愛い女の子だ。
小学6年生のころ、近くに大型ショッピングモールができたこと、年頃だったことから友達の服が飛び切り可愛くなった。
今でも覚えている。レピピ、ピンクラテ、リズリサなどなど。
ふわふわの可愛いお洋服を身にまとった友だちはとてもとっても可愛くてキラキラしていた。羨ましくて、私も母にねだってショッピングモールへ連れて行ってもらった。
その服は似合わないと哀れむように見てくる母と、強がる私
その中の一つに、黄色のチェックのワンピースがあった。
私は人込みに呑まれながら母に叫んだ。
「あれ可愛い!!!!」
母は、チラとそれに目を向けて、私を見た。哀れなものを見る目だった。
「あれは、あなたには似合わないよ」
私の頬は火が付いたように真っ赤になった。
似合わないのか、私は。そんな目をされるほど、私はそれが似合わないのか。
そんな私が、人が大勢いる中で叫んでしまった。どれほどみっともなく恥ずかしいことをしてしまったのだろう。
「いや、別に、着たいとか言ってないし。ただ、可愛いっておもっただけやし!!」
母は、少し安心したように笑った。結局、あのあと、私の意見は全無視されてイトーヨーカドーでグレーのトレーナーを買った。
「これが一番似合っているよ」
母の笑顔を見て、私は確信した。なるほど、私は、グレーのトレーナーが似合うのか。幼いながらに納得した。
店員さんに選んでもらった一張羅。これなら大丈夫だと思っていたのに
母の友人が服屋さんを開いた。友達割引をしてくれるため、よく通うようになった。
先の事件以来、服を買うことに抵抗ありありだった中学生の私は、母の友人である店長さんに服を選んでもらっていた。
「まあ!この服とこのズボン、すっごく合ってるよ!」
店長さんの笑顔に、少し自信がついた。これは私の一張羅にしよう。そう思ってワクワクしながら家に帰った。
友達と遊びに行くことになり、私はその服を引っ張り出した。お洒落で有名な友達だったから下手な恰好をしたくなかった。
友達に会うと、やっぱり友達はものすごくお洒落だった。でも、今日の私は大丈夫と言い聞かせて一緒に遊んでいた。
そのはずだった
「…ごめん、言いにくいけど、その服、ちょっとあかんと思う」
プリクラ機の前で言われて目の前が真っ暗になった。
家に帰って家族に聞いてみた。姉が哀れみの目で一言、
「え、ほんまにないな、それ」
恥ずかしすぎて涙が零れた。
あの店長…もしかして売れ残り押し付けたな。と、店長さんに勝手な憎しみを抱いてしまった。
服選びのトラウマから少し回復させてくれた、友人の一言
そんなこんなで、服選びへの自信を完全になくしてしまった。一人で服を買いに行き、商品を手に取ると笑われている気がした。服を買うときは必ず信頼できる人を連れて行った。
下調べを念入りにして、これを買うと決めても、試着室に映った姿を見て絶望した。店員さんを信用できなくて、話しかけられた瞬間に店を出るようになった。
自分がどんな服を着たいのかさえ、分からなくなった。
友達グループで、服を買いに行っても友達の様子を見るばかりで買おうとしなかった。
高校生のころ、洋服が大好きで、人の容姿やファッションを絶対に批判しない友達が言った。
「大丈夫、試着はタダだよ。いつか、これ!って思える日が来るから」
そういうと、彼女は大量の服を持って堂々と試着室へ入っていった。
それから、ちょっとずつ、服を試着するようになった。店員さんに、頼みに行くのが怖かった。集団の客がいると目線がとても気になって消えたくなる。何を着ても自分が気持ち悪くて、試着室で泣いたこともある。服を全て元の場所に戻すとき、ひどく空虚になった。
それが、何年も何年も続いた。
これを着ている私が好き!ついに出会った私に似合う服
そんなある日、Vネックの服を試着した。ビビッと来た。
これだ!これが好きだ!!
またある日、襟付きのブラウスを着た。しっくりきた。
これが私だ!と思った。
またまたある時、ジャケットを羽織った。鏡を見たとき、自分の目が輝いたのを実感した。
これを着ている私が好きだ!!!と、付き添いの母に向かって叫んだ。
うすうす気づいてはいたが、私はジャケットコーデがとてもとても似合うのだ。
ガッチリタイプのぽっちゃりである私は、特に上半身に厚みがあった。
そのため、ジャケットを着ても着られることなく、厚みを利用してぴったりと着ることができたのだ。自画自賛にはなるが、めちゃくちゃカッコいい。
憧れていたのは可愛い服。
似合うのはちょっとかっこよくてきれいめ。
この差に絶望するかと思いきやそうではなかった。
普段は、ジャケットコーデ、気分を上げたいときはちょっと可愛く。そんな、使い分けができるようになった。
私は今、1人で服を買うことができる
とは言え、ちょっと緊張するし、悩みすぎて1つの店舗に45分居続けるなんてザラにある。
でも、以前ほど視線を気にしなくなった。
だって、ジャケットを着た私は最強だから。
(もちろん、可愛いピンクのワンピースを着た私も最高!)