「この4年間は何故フリーターをしていたのですか?」
それは、私が面接で必ず聞かれる質問だ。
1年前、23歳の私は初めての就活に苦戦していた。

「アイドル戦国時代」。アルバイトを幾つも掛け持ちして生活した

高校卒業後、同級生達は就職したり進学したり安定した進路に進む中、私は夢を追う道を選んだ。
高校を卒業してすぐ、私はライブハウスでアルバイトを始め、そこで知り合った音楽関係の仕事をしている方に地下アイドルに誘われた。
本当はアイドルじゃなくてバンドマンになりたかったけど、大好きな音楽を仕事に出来るなら何だって良かった。

しかし地下アイドルというのは厳しい世界で、私が地下アイドルを始めた当時は「アイドル戦国時代」と言われるほど沢山の地下アイドルが小さなライブハウスで活動をしていた。
売れないアイドルだった私は、当然アイドルの仕事だけじゃ生活は出来ず、アルバイトを幾つも掛け持ちして生活を送っていた。

それからの4年間はあっという間だった。
事務所が潰れて別のグループに加入することになったり、生活の為に水商売をすることになったり、客が1人もこない日々が続いたり、辛いことは沢山あった。
しかし、それでもいつか売れる事を夢見て努力し続けるのは、私にとって幸せな時間だった。

そんな中、転機は突然訪れた。
新型コロナウイルスの影響だ。
ライブやイベントは一切出来なくなり、バイト先も次々休業。
私は生きることすら厳しい状況になってしまったのだった。

卒業。肩の荷が降りたような気がして、なんの後悔もなかった

そして迎えた23歳の誕生日。
どこのアイドル事務所も、募集は大体23歳まで。いよいよ、アイドルとして限界の年齢を迎えたのだと思った。
売れないまま、ライブの出来ない状況で、私はアイドルとしての賞味期限を逃してしまった。
だけどその時の私は悔しいよりも、安心したような気持ちが大きかった。
自分は十分頑張った、やり切ったと言いきれるからだ。
コロナウイルスの影響がなければ、私はズルズルとアイドル活動を続けていたかもしれない。
アイドルを辞めるにはいいキッカケだと思った。
卒業の日は沢山泣いたけれど次の日にはスッキリしていて、肩の荷が降りたような気がして、なんの後悔もないのだと実感した。

しかし私にとって、その後の就活が想像以上の地獄だった。
何ヶ所も面接を受けたが全滅。
コロナウイルスの影響もあったのだろうが、理由はそれだけじゃない。
履歴書に残る私の職歴は、4年間ずっとアルバイトのみ。
地下アイドルとしての収入がほとんどなかったので、職歴の欄に「地下アイドル」なんてことは書けないのだ。

私の職歴をみた面接官には必ず、
「この4年間は何をしていたのですか?」
「ずっとフリーターだったのに何故今更就職を考えようと思ったのですか?」
と聞かれた。
初めての面接の日、そのような質問をされた私は「夢を追って地下アイドルをしていました」と答えた。
それに対して面接官は、「夢を諦めて就職することに対する後悔はないのですか?やっぱり諦めきれないと言って急に辞めたりしないですか?」と私に問いかけた。
私は「やり切ったので後悔はありません」と答える。

しかし、面接官は納得のいかない顔をして、こう続けたのだった。
「そもそも、そんな華やかな世界で4年間過ごしていた人が突然、普通の企業で仕事をして続けられますか?」
私はすぐに「はい、それは大丈夫です」と答えたが、すぐに頭が真っ白になり、その後の言葉が出てこなかった。

後悔しないように必死に生きてきたのに、マイナス評価が悔しかった

そのまま面接は終わり、帰りの電車で「あー、これは落ちたな」なんて考えながら、あの時どうやって返すのが正解だったのかを考えた。
仕事を続けられるか、という質問だけなら「はい」と答えられる。
けど、引っかかるのはそこじゃない。
4年間同じことを続けてこられたのは、私の中では大きな成果だったけれど、あの面接官にとってはそうではなかったのだろう。
それは、私の仕事が「地下アイドル」だったから。
そもそも地下アイドルというのは、本人達からすればちっとも華やかではない。地下アイドルに限らず芸能人は皆、影でかなりの努力をしていると思う。それを見せない力があるから芸能人として成り立つのだ。
しかし、周りからはそう見られても仕方ない職業なのだと思った。

その後の面接でも私は「地下アイドルをしていました」と答え続けたが、どの面接官も同じ反応。
迎えた7ヶ所目の面接で私は、「地下アイドルをしていた」と言うのをやめた。
結果は、合格だった。それは凄く嬉しかったけど、なんだか心が冷めきったような気分になった。

大人が夢を見ることはいけないことなのだろうか。
どこに行っても4年間夢を追うことがマイナス評価になることが、どうしても納得いかなかった。
確かに「後悔はない」と言っていても信用してもらうのは難しいかもしれない。
だけど、挑戦する前に諦める人が多い世界を、私は後悔しないように必死に生きてきたのに、それがマイナスとして評価されるのが悔しかった。
しかし、この思いを理解できないと考える人が多いのは事実だし、仕方ないのかもしれない。

「地下アイドル」の経歴を隠したのは、正解だったのだろうか

アイドルを引退して一般企業に入社してからもうすぐ1年が経つ。
アイドルに戻りたいと思うことはないし、1年経った今でも後悔はない。
今の仕事も楽しい。

だけど、あの時「地下アイドル」という経歴を隠したことは本当に正解だったのだろうか。
最後の面接で、「地下アイドルをしていました」と言ったらまた落ちていたかもしれない。
だけど地下アイドルの仕事は私の人生にとって、1番胸を張ってやり切ったと言いきれる仕事だ。
これから先私も、今夢を追っている人達も、夢を追った時間を隠さないといけないなんておかしいと思う。

だから私は、夢を追い続けた大人が胸を張って生きていける社会にしたい。
このエッセイは、私の新たな夢の第一歩だ。