「恋人がいる」
その一言が言えない自分が憎い。
女性とお付き合いをして1年。恋人がいる、の一言が言えなかった
「最近はどう?彼氏できた?」
久々に友人と食事をしていて、よくある会話のうちのひとつであるそれに、私は一瞬言葉に詰まってしまった。
今はそういうのはないよ、と濁した気がするけど、必死に切り抜ける言葉を探していたからしどろもどろだったはずだ。
友人はそれでも「本当~?」と聞いてくれたけど、結局私はコロナのせいで出会いもないから!ともっともらしい理由をつけて話を切り上げた。
そこからは仕事や近況といった話題になったけれど、結婚が近いという友人はそれ以降「彼氏」の話題を振らなかった。気を遣わせてしまったのかもしれない。
私は今、同い年の女性とお付き合いをして1年になる。
デートも、スキンシップも、男女のカップルとなにひとつ変わらない。
それなのに、彼氏の事を日常の一部として緩やかに話す友人と、同じ温度で彼女について話せなかったあの日の自分に、とても傷付いている。
恋人がいる、の一言でもよかった。
だってそれは紛れもない事実にして、とても大切で誇るべき感情なのだから隠す必要はないと、頭ではわかっていたのに、そこから深く聞かれて相手が女性だということを伝えるのが急に怖くなってしまったのだ。
同性とのお付き合いを「引かれること」だと思う自分が憎かった
大切な友人だからこそ、当たり前のように受け入れてくれるかもしれない。
でももし引かれてしまったら?空気が悪くなったら?
それも怖いけど、一番びっくりしてしまったのは、自分でその大事な事実のことを「引いてしまう出来事」だと考えていた事だった。
同性とお付き合いをするということが自分の中でまだ飲み込めていないから、そう思ってしまったのか。どちらかというと厳しい家庭で育った私は、固定概念や世間でいう多数派からあぶれてしまうのが怖いのではないか。覚悟が足りないのではないか。
そんな考えでいっぱいになって、友人の前で言葉を濁してしまったのが友人にも彼女にも不誠実に思えて、帰りの電車の中で少し泣いた。
怖いと思ってしまったのが悔しかった。
「全員が全員にカミングアウトすれば良いというわけじゃない」というのをどこかで見た気がする。差別はしなくとも、理解できない人もいるだろうし、自分を理解してくれる人だけに言えばいいというのもわかる。傷付くのは誰だって怖い。
でも私も、友人のように恋人の事を日常の一部として話したいと思ったし、友人とそういった話を共有したいという気持ちもある。恋愛の話だって嫌いな方ではない。
友人と楽しく恋人との話で盛り上がりたい、それだけなのだ。
そう考えているのに、同性とお付き合いをしていることが「引かれること」だと思ってしまう自分が憎くてしょうがなかった。
なにが正しいか正しくないかより、自分の気持ちに嘘をつきたくない
私の考え方は、まだまだ偏っていて未熟かもしれない。
人に受け入れてもらう事を当たり前としすぎていて、傲慢と言われるかもしれない。
私の勇気が足りなかっただけの話で、いたずらに怯えているだけかもしれない。
世の中はゆるやかに変わっているけど、傷付くのも確かに怖くて、安心を求めて大衆の意見に合わせているところもあるかもしれない。
でもなにが正しいか正しくないかよりも、友人や家族や好きな人に、自分の気持ちに、嘘をつきたくないだけなのだ。
私は大切な友人に恋の話を振られたら、爽やかに「彼女がいるよ」と言えるようになりたい。