小さい頃から可愛い物へのこだわりが強かった。ハンカチに、文房具に、ヘアアクセサリー……。お気に入りのキャラクターやデザインに囲まれることが幸せで、気にいる物が見つかるまでお店を巡るこだわりは、大人になった今でも変わらない。

可愛い物が好きな私にとって、結婚式はお気に入りを詰め込むひと時

私にとって、結婚式はお気に入りを詰め込む夢のひと時だった。まだ結婚が決まる前から、度々ウェルカムスペースやドレスへの思いを巡らせていた。
品があって、大人っぽいけど可愛らしさもあって……。SNSで素敵なドレスを見かけては、理想のウェディングドレスを思い描いて楽しんだ。幼い頃はピンクやリボン、可愛らしい・女の子らしいとされる物を好んだ私も、もう20代後半。歳を取るにつれ、今まで好きだった物を可愛いなぁと思いつつ、落ち着いた色味やデザインを好むようになっていた。
先々と結婚していった友人たちは、口を揃えて言う。

「何着も着て、決まるまで色んなドレスサロンを巡ったよ」

そこで私には一抹の不安が生まれる。挙式予定の式場についているドレスサロンは申し訳程度の大きさで、ウェディングドレスとカラードレスを合わせても、並んでいるのはたったの2列。
こんなにこだわりの強い私に、果たしてあの数の中から好みに合うドレスは見つかるのだろうか。しかし、そんな不安をよそに、わたしの運命の1着は2回目のサロン訪問にてあっさりと決まってしまう。それも、思いもしなかったデザインに!

自然と「可愛い」と口に出していた。おすすめされた運命のドレス

「ご新婦様に絶対似合うと思うんですー」

小さなサロンに並ぶドレスはごく少数。そこでこのサロンでは、各々の担当スタッフが花嫁の希望に合わせ、系列式場共通のアトリエからドレスを取り寄せるシステムとなっていた。
だが、選ばれし私のフェアリーゴッドマザーが差し出したのは、大人っぽくナチュラルな物を希望していた私のイメージとはがらりと違う1着。

「え、これはちょっと違うかも……」
内心がっかりしながらも、にこにことドレスを差し出す彼女の好意をむげにはできず、愛想笑いを振りまきながら袖を通す。ふわりとした特徴的で大きなパフスリーブに、アイボリーがかった優しいホワイト、腰から裾にかけて繊細なレースが少しだけ装飾されたそのドレスは、床に向かってふわりと大きめに膨らむ。
いつか映画で見たプリンセスを思わせる可憐なデザインは、歳の割には幼く見える私の顔立ちと小柄な身長に驚くほど見事に合っていた。思わず笑顔が溢れ、自然と「可愛い」と口に出す。試着室のカーテンが開き、ふわふわとしたドレスに身を包んだ私に、腰掛けて待つ旦那もにっこりと笑った。
その後も何着か試着はするも、このドレスに勝る1着なし。20代も後半になり、数え切れないほど友人たちの式に出席していた私にとって、誰とも被ることのないあの特徴的なパフスリーブの可憐なドレスは、まさに自分らしさを表現しつつオリジナリティも出せる願ってもない魔法のドレスだった。
当日はもちろん、その後においても「あのドレス本当に可愛かった!」と友人たちからも大好評だった。

大切な日を自分らしく過ごせた。魔法のようなドレスから学んだ教訓

もしあの時、趣味じゃないからとドレスに袖を通さなければ、担当があのスタッフさんでなければ、こんなにも素敵なドレスに巡り合うことはなかっただろう。
こだわりが強く、自分の意見を大事にする私に、あのドレスは、他人から見た自分を知り、耳を傾けることの価値を教えてくれた。

そして、流行りや歳を気にしてナチュラルで大人っぽい物を選ぶようになっていた私が、最終的に選んだのは、ともすれば歳のわりには可愛すぎるかもしれない、けれど、本来の私が大好きな可愛らしさと女の子らしさをあしらった、あのふわふわとしたドレスだった。
あの魔法のように素敵なドレスは、自分の好きな物を大切にしていいことや、自分らしさを無理して作ることはないことも、わたしに伝えてくれた。あのドレスのおかけで、一生に一度の日を自分らしく過ごし、表現することが出来た。
わたしの思い出のドレスは、大切な教訓とあの日のスタッフさんへの感謝と共に、今も写真の中でキラキラと輝き続ける。