「今日、会える?」
20時45分、桜の舞い散る夜に震える指で彼に送ったメッセージ。
これは私の最後の“悪あがき”の始まりだった。

大学で出会った彼には好きな人が…。私なりの悪あがきが始まった

彼と出会ったのは2年前の春。きっかけは大学のサークルの新歓だった。
徐々に距離を詰め、親友となった彼への自分の本心に気づいたのは1年前の春。
それからだった。バイト先の清楚で可愛らしい「美香ちゃん」で頭がいっぱいで、私のことなんてアウトオブ眼中な彼への“悪あがき”が始まったのは。

彼を家に呼び手料理を食べさせたり、嫉妬させようと頑張ったり、ついには添い寝までして、そんなこんなでなんと1年が経過してしまった。
ここで話は冒頭に戻る。私は今日告白して、この“悪あがき”を終わりにする。

21時15分、何も知らないターゲットが私の家にやってきた。額には軽く汗をかいている。呼ばれたら急いでチャリで来てくれる彼が好きだ。
「疲れた~」と言いながらも、家に着いてすぐ手洗いうがいをしている。当たり前のことをきちんとする彼が好きだ。

「これが欲しかったんでしょ?(笑)」
そういって取り出すのは、コンビニで買ったみかんのリキュールと炭酸水、ハーゲンダッツにおやつカルパス。私の好みを知り尽くす彼が好きだ。
喉に熱いものが込み上げてきそうになるのを必死で堪えて、お酒を流し込んだ。大きすぎる彼への愛情も、辛くて泣きそうな気持ちも、緊張も、全部全部流し込んだ。

困り顔をする彼にやけくそで叫んだ気持ち。うつむかないでほしかった

1時間後、私は泥酔していた。彼は笑いながら私の頭を撫でている。好きでもない私にもここまで優しくしてくれる彼が…(…。)
「大嫌い」
いきなり喋った私に彼は少し驚き、笑いながら顔を覗き込んできた。

「優しくせんといてよ」
あぁ、そんなに困った顔しないでよ。今からもっと困らせること言うんだからさ。
手の震えをごまかすために、もう飲み終わっているお酒の缶を握った。手先の感覚がない。
深く息を吸った。うまく吸えない。身体中が熱くなっているのを自覚し、半ばやけくそで叫んだ。

「好きやった。ずっと。ごめん」
ごめんなんて言うつもりなかった。笑顔でありがとうって言うつもりだった。
「気持ち悪いよな、こんなゴリラみたいな女に好かれるとか(笑)」
お願いだから嘘でもいいから首を横に振ってよ、うつむかないでよ。

「私に会ってる暇あったら、美香ちゃんにはよアタックしいや」
「ほら、私はあんたが幸せならそれが一番嬉しいからさ」
よかった、一番言いたかったことが言えた。どんなに泣いてもこれだけは伝えたかった。

嗅ぎなれた柔軟剤の匂いが鼻を掠め、彼は私を強く抱きしめた

シンと張り詰めた空気。永遠にも思えた長さの時間のあと、こっちを向いた彼は見たことのないほど真剣な表情をしてこう言った。
「本当にそれでいいん?」
私は顔を手で覆って頷いた。もう作り笑いをする元気は残っていなかった。
「そっか。好きになってくれてありがとう」
終わっちゃう。大好きだった時間が終わっちゃう。

今までの思い出が走馬灯のように蘇り涙が止まらなくなったそのとき、ふわっと嗅ぎ慣れた柔軟剤の匂いが鼻を掠めた。
「優しくせんでって言うたやんか」
嗚咽まじりの声が届いたのか届いてないのか、彼は私を抱きしめるのをやめなかった。

「美香ちゃんよりも絶対私の方がいっぱい一緒にいたし、良いところもダメなところも知ってる」
堰を切ったように震えた言葉が溢れ出してくる。
「世界中で一番あんたのことが好きなのに、これ以上どうしたら私のこと好きになってくれるの?」
彼が私を抱きしめる腕が強くなった。

あのとき勇気を出したから、今でも私は君の隣にいられる

「俺は本当に君がかけがえのない存在だと思ってる」
そんな言葉が聞きたいんじゃない。ただ一言、好きだって言ってほしいだけなの。

そのまま抱きしめられて泣いていたら寝てしまったようで、朝起きたら一人でベッドの上にいた。お皿は綺麗に全て洗われていて、空き缶とゴミと彼は消え去っていた。
こんなときでも私を気遣ってくれる彼を嫌いになることなんてできない。朝日を浴びながら、また頬に涙がつたうのを感じた。

あれから半年が経った今でも、あの肌寒い夜のことは鮮明に覚えている。
「あのとき勇気を出してくれてありがとう」
後にたくさん悩んで自分から告白してくれて、今は私の隣で恋人としてニコニコ笑っている彼が私は世界で一番好きだ。

あの夜があったから。私は今も君の隣にいられる。