それは、一方的な初対面でした。
私が彼を知ったとき、彼はただ楽しそうに歌をうたっていました。その無邪気な笑顔によって、私は舞台の下で、ひっそりと恋に落とされたのです。
恋の多い生涯を送って来ました。……とは言っても当時13才の私は、あまり恋とは呼べないような甘ったれた「好き」という感情しか知りませんでした。
「○○くんが好き!」「でも△△ちゃんと仲がいい」。そんな状況でも、若さとは恐ろしいもので、最後にはきっと私と付き合っているんだと本気で思っていました。
そのくせ飽きてしまえば一切の感情が消えて、ただのクラスメイトとしてしか接しないなどと、到底乙女とは言えないような悪行を繰り返していました。
そんな13才が24才になるまで、ずっと憧れている人がいます。その人に向けて、エッセイという建前でラブレターを送りたいと思います。

演じる彼を見て、フワフワと防御力が0%だった私は、その魅力に瞬殺

冒頭でも述べた通り、私が彼を知ったのは舞台の下、つまり観客席でした。その日は中学校の文化祭2日目で、メインイベントの「全校劇」がありました。
「全校劇」とは、全校生徒の中から選ばれたメンバー30人ほどで構成された期間限定の劇団。出演した人はしばらく周りからちやほやされるほど人気のあるイベントでした。1年生の私は、人生で初めての文化祭にフワフワとした興奮に包まれながら、それが始まるのを待っていました。
劇の中盤、突然その人は現れました。
顔はイケメン、声は美声、演技も上手、そして面白い……すでに完璧なのに、加えて笑顔まで可愛いというとんでもない人だったのです。フワフワと防御力が0%だった私は、その魅力に瞬殺されたのでした。
その後、彼に近づきたい一心で実に様々な努力をしました。

まず朝早く学校へ行き、校門がよく見える窓の一角を確保。登校するお姿を拝見。休み時間は共同スペースのパトロール。お昼休みでは彼の弟と同じクラスだった友人へ会いに行き、彼の情報を給食のプリンと交換してもらいました。
先生や私の姉からも話を聞き、ついに下の名前と生年月日、好きな食べ物は天ぷら(らしい)等の情報も入手することができたのです。
情報をある程度手に入れたある日、私は気付きました。
「私も演劇をすれば、もっと近づけるのでは?」
こうして私の演劇人生は、不純な動機によって、幕が上がったのです。

彼に褒められたくてより一層演劇にのめり込み、楽しさを見つけた

もともと演劇に興味のあった私は、それはもう楽しく練習をしました。人見知りで声が小さかった為、なるべくハキハキと話すように意識をして。ドラマやアニメを観て、真似をして。
それが功を成したのか中学2年生の時、全校劇に参加して少し目立つ役をもらうことができたのです。
憧れの彼は2つ歳上ですでに卒業していましたが、全校劇の練習を観に、よく遊びに来ていました。卒業後は滅多に会えないと思っていた私は、毎日会えることが嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。この時期から彼に褒められたくて、より一層演劇にのめり込むようになったのです。
中学3年生のときも当たり前のように全校劇へ参加しました。役を演じ、練習しているうちに、私は演劇自体の楽しさを見つけました。中学校を卒業し、本格的に彼と会えなくなっても演劇はやめず、高校では演劇部、地元では市民劇団に所属しました。その後、専門学校へ進み、上京。養成所に入って、今に至ります。

私にとって演劇は彼で、彼は演劇。好きという気持ちでまだ頑張れる

飽きっぽい私が、こんなに一途に誰かを好きになるとは思いませんでした。こんなに、何かを好きになるとは思いませんでした。かれこれ11年の月日が流れますが、未だに思いがかすむことはありません。
私にとって演劇は彼で、彼は演劇だったのです。たまに演技でつまずくことはありますが、好きだという気持ちでまだ頑張れる気がするのです。
これを憧れというのか依存というのかは分かりませんが、この恋で元気になれるうちは良いように勘違いしていたいです。そして、ドラマや広告で世に出て、どこか知らない街に住む彼のもとへ、思いを届けに行きたいです。