「音楽って、楽しんでいいんだな」
1年前、私がYouTubeで出会った“あの人”を見たとき思った。

私は小さい頃からヴァイオリンを習っている。コンクールにも挑戦するくらい真面目に練習していたけれど、高校で進路を選ぶ際、音大は選ばなかった。
「音楽で食べていくのは大変」
そんな言葉を何度も聞いたからだ。私は自分の演奏に自信がなかった。それに、偏見かもしれないけれど、音大は“競争社会”だと思っていた。
もっと純粋に音楽を楽しみたかったから、文系大学に進学し、音楽とは全く関係のない仕事に就いた。ヴァイオリンは趣味として、休みの日に弾いたり、アマチュアのオーケストラに入って演奏している。

面白いゲームをするかのように、キラキラと音楽を演奏する“あの人”

私の憧れである“あの人”は、ピアニストを目指して音大へ入った。しかし、「上には上がいる」ことを実感し、自信を失い一般企業に就職した。そこで頑張りすぎてしまい体調を崩して休職。
心配した会社の先輩がストリートピアノへと連れ出し、その演奏をYouTubeに投稿したところ話題になり、ストリートピアノを中心に活動するピアニストとなった。

私の思う“あの人”の魅力は、音楽を心から楽しんでいる、ということだ。
笑顔でピアノを弾く姿は、まるで面白いゲームをしているかのようである。作られた笑顔ではなく、本当に楽しくて笑っている。魂の入った演奏に人が集まり、笑顔の輪がどんどん広がる。キラキラしていて、私は思わず虜になった。
家に帰ればYouTubeで“あの人”の動画を見て、応援用のTwitterアカウントを作成。ファンクラブにも入会し、生まれて初めてライブにも参加した。そして私の中に、“好き”と“憧れ”が芽生えたのである。
私ももっと、音楽を楽しみたい。
今までずっと、楽譜と向き合って演奏してきた。楽譜に書かれた指示、記号の通りに、音を出す。
“あの人”は、耳コピして自分の身体に入った音楽を、自分と向き合って演奏する。

心の奥底が刺激され思い出した、演奏したい気持ちや本当の自分

“あの人”を応援しているうちに、思い出したことがある。
小中学生の頃、夏休みのイベントとして老人ホームでのミニコンサートがあった。自分の先生の生徒数人と、他の先生の生徒と合同で行われた。
小さな子が弾けば、笑顔になっていたり、懐かしい歌を聴いて、涙する人もいた。私はその空間が好きだった。レベルや経験年数も関係なく、あたたかく包まれたその場所で、大人になっても演奏できたらいいな、そんなふうに感じていた。

“あの人”を見ていると、自分の心の奥底が刺激される。人前に立つのは怖いけど、嫌いじゃないんだよね?本当はもっと、キラキラ輝きたいんでしょ?失った自分への自信を取り戻したい。でも、そんな自分と向き合うのは怖くて、心の声に耳を傾けない。もやもやした感情はすぐになかったことにする。そして目の前にある現実をただ生きている。そんな自分が嫌いだった。
今こそ、変われるチャンスかもしれない。“あの人”に出会えたから。本当の自分を教えてくれたから。このチャンスを掴めば、自分のこと、少しは好きになれるんじゃないかな。

“あの人”とは、YouTubeを始めて2年ちょっとで登録者数180万人を超える、「ハラミちゃん」だ。
私はこれからも彼女を応援し、彼女の背中を追いかける。そして、彼女のように、音楽を通して「笑顔の輪」を広げていきたい。