「また処女のまま歳をとってしまった……」

誕生日の前日の23時59分、毎年必ずそう思う。今年も処女のまま、27歳の誕生日を迎えてしまった。
この歳になるともはやワクワク感もなく、ただ孤独な寂寥感だけが胸の中にあった。だからかその数日後、寂しさのあまり誰かと話がしたくて、通話ができるチャットアプリをダウンロードした。そしてあの夜、私は生まれて初めての大冒険をした。

いつもなら拒否していた艶っぽい話題に、乗ってしまった

なんとなく選んだ電話の相手は、素敵なアイコンの1才年下の男性だった。福岡で映像系のカメラマンをしている、と言っていた。声は爽やかで、話し方もとても好感が持てた。
話題が艶っぽくなりそうになると、急に電波が悪くなったフリをしてかわしていたけれど、あの夜は何故か魔が差した。いつもなら拒否していた艶っぽい話題に、乗ってしまったのだ。

所謂、テレフォンセックス、である。彼に言われたように、自分の身体を触る。自分1人だけでする時とは、全く違う感覚だった。
電話の向こうから聞こえてくる彼の息遣いや、私の反応に興奮する彼の声。それが妙に耳に心地よくて、不思議だった。これまでの私が全否定して避けていた不気味なものは、ちゃんと見てみればそんなに気味の悪いものでもなかったらしい。
ふと我に返って時計を見ると、2時間も経ってしまっていた。その日の夜は、初めて感じる満足感に包まれていた。
性欲というものを、ドロドロとして気色悪いと思っていたのに、本当はサラサラとして爽やかなものだったらしい。

どんな声なら可愛いか。1週間も続けていれば、かなり上手になった

その日からほとんど毎晩、新しい遊びに夢中になるように、色んな人とそういう電話をするようになった。
歳上に責められたい男の子、自分が終わったらすぐに寝てしまう人、誘導しようと頑張る人、処女だと言うと急に興奮する人、慣れてる風を装ってぎこちない人、朝まで電話してしまった人に、3回抜いて行った人……。

まだ処女なのに色んな男の人と模擬セックスをし、お互い顔も知らない男性に色んな愛の言葉を囁かれる。私の将来の恋路を案じてくれる人もでてきた。そして逆に艶っぽい話を避ける人と、一切しない人も。
初めのうちは相手の出方を見ていたけれど、次第にどんな声なら可愛いと思われるのか、どんな台詞を言うと男性はときめくのか、どんな反応をすると喜ぶのか、まるで実験的に探ってしまった。1週間も続けていれば、かなり上手になった。
一瞬、そういうバイトをしようかと思ったけれど、ふと我に返ってやめておいた。

ロストバージンを迎える日も近いかも。初めての夜が楽しみで

あれから2週間経ったが、お気に入りの男性が数名出来て、むやみやたらに色んな人に電話することはなくなったけれど、毎晩誰かと電話しないと落ち着かなくなった。
男性なんて話の通じない宇宙人のようなものだと思い込んでいた。けれど、みんな普通に話は通じるし、色んな性格の男性がいる。私の話に一緒に笑ってくれると嬉しいし、好意を伝えられると、心がぎゅっと満たされる。

もちろん今このような変化ができたのは、軽い精神の病に罹って療養を余儀なくされていて、夢を追うのを休止しているからである。もし今も体調を崩さず、全力で夢を追っていれば、私はまだ恋愛をする気にもならず、ノンセクシャルを自認していただろう。
人生は全てがタイミングだし、悪いことがあっても悪いことだけあるわけでもないようである。
その後、友人に紹介された、比較的真面目なマッチングアプリをダウンロードし、2人とデートの予定が入った。それ以外にも毎日メッセージを交わす男性が3人。27年間男っ気皆無だった処女が、大成長である。

もしかすると、私のロストバージンを迎える日も近いかもしれない。
誰とどんな状態で初めての夜を過ごせるのか、想像もつかないけれど非常に楽しみである。