いつも背中を追いかけてきた。
いつも後ろについていった。
でも、もう追いかけない。

有名人の姉にいつもついて回り、習い事も受験も同じことをした

私の憧れの人は、2つ歳上の姉だ。
頭が良く、学校では知らない人はいない程の活躍ぶりだった。習い事でも数々の賞を獲得していた。
自分の姉がこんなにできることは誇らしかった。
「わかちゃんのお姉ちゃんって生徒会長だよね」
「わかちゃんのお姉ちゃんってこの前壇上で賞状もらってた人だよね」
「わかちゃんのお姉ちゃんこの前、宣誓してたよね」
「わかちゃんのお姉ちゃんって、ほんとすごいよね!」
同級生からも私の姉は有名人。知らない人はほとんどいなかった。そして、私はそんな姉のそばを常について回っていた。

姉が習っていたからピアノも書道も習った。姉がやったものは私もやってみた。姉が私立の中学校を受験したから、私もそこの中学校を受験した。
姉の出場したコンクールは私も出場し、姉が出したコンテストは私も出した。ピアノも書道も弁論も写生も全部全部……。
しかし、私の学力は、姉よりも圧倒的に劣っていた。ピアノも自信のある姉とは違い、度胸のない私は本番に緊張して、舞台でうまく弾けないことがあった。弁論は声の通りの悪い私とは対照的に、姉の声の通りは良く、高く評価されていた。

そして、周りからいろんなことを言われるようになった。
「姉妹そろってすごいねぇ」
「妹さんだもんね」
「妹さんかぁ、似てるねぇ」
「妹さんかぁ。お姉さんよりかは少し劣るね」
「お姉さんは良くできてたのにね」
「よくお姉さんと同じことやるよね」

姉の後ろ、もしくは横に私がいる。私は常に前には出られない

そして私は気づいた。
私は姉を主体とした妹という存在であることに。
何をやっても前に姉がいる。姉と比べられて、できるできないを判断される。優秀な姉に対して私はそう大したことがない。姉の後ろに私がいる。もしくは姉の横に私がいる。私は常に前には出られない。
家族からも姉と同じことをやる私は、姉妹という枠の中で比べられた。
「お姉ちゃんは頭いいのにね」
「あなたはお姉ちゃんと同じ頑張りでは到底姉のレベルには追いつけない」
「残念だけど……」
その続きは言われなくてもわかった。自分がどれだけ追いかけても超えることができないこと。

憧れて追いかけることは、自分をやる気にさせるかもしれない。努力して成果をあげることができるかもしれない。
たしかに、良い評価を得たものもある。でも、追いかけているだけでは超えられないものも多い。経験上ほとんど私が下になった。
私から生み出してない。
私はただついてまわっていただけの存在。
考えてみれば、そんなの……惨めなだけだった。
自分がないのだから。そこに私がないのだから。

憧れることを辞めた。私が私であり、私が私だけの存在になるために

だから、私は憧れることを辞めた。
私が私であるために。私が私だけの存在になるために。私が私なりに、越えたい壁を超えられるように。
憧れたままだったら、その人のことをずっと見上げ続けてしまう。
私は隣に立ちたい。なんなら、超えたい。分野が違っても、立場が違っても、見上げているだけではもったいない。

可能性を広げるために、私は憧れを卒業する。
大好きな気持ちは死ぬまでずっと持ち続ける。
だけど、もう憧れではない。
私、もっとステキになるから。
憧れた姉の隣で、自信を持って歩けるようにするから。
もう、私は私だけの私だから。