「もし、過去に戻れるならあの日に戻りたいとかある?」
彼氏に聞かれ、私は迷いなく「もちろん」と答えた。
田舎の夏の空気。その青い香りは私を後悔の渦に巻き込んでいく。
腕を急に引っ張られた写真には、彼を抱きしめるような私と笑顔の彼
高校3年の夏、最後の学園祭の日。私たちのクラスはほとんどが2年の時と同じメンバーで、きっと学年で1番仲の良いクラスだった。
そんな私たちだからこそ、毎日のように学校に残って準備をし、当日も大きな事件はなく、学園祭は最高の一言で幕を閉じた。
高校生のノリで打ち上げをすることになり、私たちは決して美味しいとは言えない焼肉の食べ放題でお腹を満たし、夜の公園で水風船や手持ち花火をして遊んだ。そして、みんなで記念撮影を撮ることになった。
私が仲の良い男子の後ろでピースをしていると、急に腕を前に引っ張られ、まるで彼を抱きしめるようなポーズになっていた。
一瞬何が起きたかわからなかったが、スマホに映る私と彼の満面の笑みが全てを物語っていた。
平行線を辿るべき2人だと言い聞かせて、誘いを断った後気づいたこと
その日の夜、家に着くとその男の子からLINEが来た。
「今度、花火大会行かん?」
私は心臓が飛び跳ねるかと思った。寝る前も起きてからも鼓動は高まるばかりだった。
だが、心の中には、冷静で弱い私がずっと居座り続けていた。太陽の花のように明るく爽やかな彼と、暗闇でひとり俯いているような私。私なんかと一緒にいるところを見られたら、彼に迷惑がかかってしまう。
どうしても自信を持てない私は、彼からの誘いを断った。私たちは、平行線を辿るべき2人だと言い聞かせて。
そしてその日から、私と彼は口をきかなくなった。
そのまま時間は流れ、私は東京の大学に、彼は海外へ留学に行ってしまった。毎日のように顔を合わせていた彼が、もう二度と会えないような遠い遠い存在になってしまった。
そうなった時、初めて私は彼のことが好きだったんだと気づいた。そしてそれからは後悔の日々を送っていた。
好きな気持ちに気づいていたのに、なぜフタを閉めてしまったのだろう
なぜ人は楽しい思い出や嬉しい出来事よりも、後悔や悲しい出来事を忘れられないのだろうか。
汗をかきながら自転車を漕いでいる私を追い抜かして笑う彼も、体育の授業の後にジュースを一口もらうことも、水風船を持って追いかけ合うことも、もう二度とない。全てが楽しく嬉しい日々だったはずなのに、今となっては後悔のために撒いた種になってしまった。私は彼のことが「好き」だったのだ。
彼の隣で私はいつも笑っていられたのに。なぜあの日は隣を歩けないと言って断ったのだろう。彼が一緒に歩きたくない人を誘うことなんてないはずなのに。なぜ彼のことを信じられなかったのだろう。本当は最初から「好き」という気持ちに気づいていたのに。なぜ私は見えないふりをしてフタを閉めてしまったのだろう。
「へぇ。そうなんだ。俺は戻りたい日なんてないな。いつだって、今が幸せだから後悔なんてしたことないし」
なぜ今の私は、こんな男の前で笑っているんだろう。心はあの日の彼を思って泣いているのに。
土と草が混じった田舎独特の匂いに、手持ち花火の煙たい匂い、そして集合写真を撮る時の彼と私の汗の匂い。
まだ私は、あの日の全てが混ざった青い香りにフタをすることができない。