残業で遅くなった大阪環状線の電車内でSNSを開いた。
最近、仕事が捗らずに、残業の日々だ。
勝手に流れていく友達の幸せそうな日常を眺めながら、ため息が出そうになる。

SNSに投稿された、かつての親友の幸せそうな姿に目がとまる

「プロポーズ成功しました!」
そんなSNSの投稿が目にとまった。大学時代の親友の顔だ。
高級そうなレストランで、笑顔の男女2人が写っている。
女の子の手には薔薇の花束、そして婚約指輪の箱。
知り合い程度の友達なら、見てみないふりしてスルーだろう。
しかし、幸せそうなかつての親友の姿にため息を抑えて、「おめでとう」と祝福の言葉を送った。
待っていたかのように「ありがとう」と返信がくる。
みんなから祝福が止まらなかったのだろう。
文面だけでも喜んでいることがわかる。

彼とは、大学1年生から4年生までほぼ毎日、顔を合わせていた。
通学、授業を一緒にさぼり、映画を見に行ったり、時には、旅行をした。
一緒にいる時間が長いからこそ、頻繁に喧嘩もした。
私の自己中心的な性格や気まぐれな態度によく怒られた。
しかし、居心地の良さから次の日には元通りで、仲良しだった。
お互い(少なくとも、私は)恋愛感情は全くなく、男女の友情が成立することを確認できた人だった。

焼肉屋でビールを飲み、酔っ払いながら交わしたカップルみたいな約束

スマホの画面に集中していた私は、強烈な焼肉の匂いに顔を上げた。
「あ、鶴橋だ」
ここは、高架下や駅周辺に焼肉店が軒を連ねており、駅のホームまで肉が焼ける香ばしい匂いが充満する。電車の窓が開くだけで、車内の隅々まで一瞬で入ってくる。
この匂いとともに、完全に思い出がフラッシュバックした。

彼と行った鶴橋の焼肉屋さん。
有名人が足を運び、安くてうまいとの評判を聞きつけて彼を誘ったのだ。
それ以外に、彼氏に振られて、一人で帰りたくない日だった。
適当にビールとお肉を注文し、しばらく待っている間に、たわいもない話が始まる。
「2人とも白シャツやのに焼肉きてもうたな」
「あれ、てか、白シャツおそろやん」
「恥ずかしすぎる」
そんな、カップルのような会話を鮮明に覚えている。
美味しい肉とビールのコラボ。ビールの飲むスピードが早くなる。

ビール2杯を飲み終わり、少し酔っ払ったことで、話がディープになる。
「いつまでに結婚したいん?」
「30までにはしたいなぁ……子供も欲しいし。ただ、まじで10年後に結婚できる気がしーへん」
「まぁ、その感じやと無理やな。俺もまだ、未来見えへんわ」
「やんなぁ。辛い。安心感みたいなん欲しいなぁ。そや!30まで結婚相手おらんかったら結婚しよや」

あの時得たかけがえのない安心感は、SNSの急な報告と共に消えた

今、考えたら何恥ずかしいこと言ってるんだ自分、と思ってしまうが、完全に彼氏に振られた腹いせみたいになっていたのかもしれない。
それでも彼は、
「あぁ!確かにな!俺もそれくらいには結婚してたいから、ちょうどいいわ!」
「お!じゃあ決まりやな」
なんと幼稚な会話なんだ。周りにいたらそう思ってしまうだろう。
しかし、この会話だけで、私自身すごい安心感を得たのだ。
誰に振られても、彼がいる。
そんな気持ちだろう。彼の存在だけで将来の不安が1つ消えるのだからすごい。
それから、月日は流れたが、大学を卒業したあとも数回会っていた。
1ヶ月に1回、3ヶ月に1回、半年に1回とだんだん疎遠になる。
あんな約束をしたことも忘れていた。

そんな中、SNSでのこの急な報告。
思い出のフラッシュバックから目覚めた私は、1つのかけがえのない安心感を失った虚無感を感じていた。