24歳。
私が少女の頃に思い描いていた24歳というのは立派な大人で、でもフレッシュさもあって、人生で最も充実していて水々しい時期。

おまけに何故か幼い頃から「2」や「4」といった数字に対して、柔らかくて可愛い印象を抱いていた私は、その両方が合わさった「24歳」というのは最強だとさえ思っていた。
24歳の自分は結婚もして赤ちゃんもいて、忙しながらも充実感を噛み締めて日々を過ごしているのだろう、とぼんやりイメージしていた。

若いお母さんにも憧れがあって、小さい頃はもっぱら家で一人お母さんごっこをしていたくらいだ。

思い描いていた輝かしい24歳になるために日々奮闘していた学生時代

私には、年頃の時期に感じる大人への反抗心や、なんだかモヤモヤするといった漠然とした将来への不安はあまりなく、いわゆる思春期症候群は通過しなかった。思春期を経験するのは、自分に芯が無い人だとさえ感じていた。

幸いなことに勉強や部活動など、自分には常に没頭出来るものが近くにあり、その積み重ねが将来活きると信じていたし、今思うと私が何かを頑張ることで親も安心するのだろうと、無意識のうちに汲み取っていたのかもしれない。そして親が喜んでいる顔を見るのは、純粋に私は好きだったのだ。

そんな調子で無事大学付属の高校にも進学し、そのまま大学にも進学をした。大学では部活動に励んでいた。
4年生の時には周りと同じように就職活動を経験し、自分の中では第一志望ではなかったが親が望んでいた就職先に合格をし、その会社に就職をすることになった。希望の会社に落ちてしまった悲しさはあったが、親が喜んでくれるならいいかなとも思い、ほっとしている自分もいた。

これからは、幼い頃からぼんやりと思い描いていた輝かしい「24歳」に向かってゆるりと準備するだけだと思った。

社会人1年目でコロナ禍に。はじめて感じたのは将来への不安だった

社会人生活も少し慣れてきた頃に、世界的に新型コロナウイルスが流行し始めた。
自粛生活が余儀なく始まったことで、自分自身の将来について考える時間がうんと増えた。
正直、無事就職することができたものの、仕事が楽しいといった感情や、辛い中に感じる充実感のようなものもずっと感じられずにもやもやと過ごしていた。

このことは誰にも言えずに自分の中に秘めていた。自分が何を仕事としていきたいのか、どういった暮らしをしていきたいのかということから逆算をして、進路を考えそして悩むといった思春期時代を踏んでこなかった私は、この時初めて、将来への不安を遅ばせながらに感じたのだ。

親が喜んでくれる選択をすることが将来の幸せに繋がると漠然と考え、自分で決断するといった作業から逃げ続けていたことに、23歳が終わろうとしていた頃に初めて気がついたのだ。

気がついたのはいいものの、具体的に何をすればいいのかもさっぱり分からず、転職のエージェントに会ったり留学の説明会に行ったりと、完全に自分を見失っていた。

実家を出る決意。内見で感じた不安な匂い。精神状態はギリギリで

疲れ果てた私は、一旦一人になって考える時間を設けようと、実家を出ることを決意した。物件の内覧に向かうときの私はいつも心がギリギリの状態だった。
実際、将来具体的にやりたいことも見つかっていないし、お給料も多くはないのに一人暮らしはやって行けるだろうか。

内覧の際、物件に入ると高確率で排水溝の匂いが薄くしていた。
私の予算内で都内の物件を探すと、ユニットバスの物件にどうしてもなってしまい、水周りの独特な匂いがしたのだ。
その匂いは毎回私を不安にさせた。物件のドアを開けてその匂いを感じ取るたびに、誰かに背中を押されて、知らない世界に閉じ込められてしまうような感覚だった。

それでも、ここで自分の将来を考えることを辞めてしまったら、本当の意味で幸せになれないと心のどこかで感じていたので、ギリギリの精神状態の中でも物件を必死に探した。

不安だった匂いは、いつしか私を奮い立たせる匂いに変わっていった

物件もなんとか見つかったので、秋頃にようやく引っ越しをした。
一人暮らし初めての夜、私はやはり心細くて不安だった、でも一人暮らしをすることは初めて自分でした決断だったのかもしれない。だから頑張ってやろうと思った。

一人暮らしをしてみると、日々の暮らしを営むというのは想像以上に大変だった。
ユニットバスのある水周りの排水溝は、こまめに掃除をしてタブレットタイプの洗浄剤も頻繁に入れた。排水溝の匂いは日々消えていったが、それでもたまにすることがあった。

でも、この匂いはなぜだか私を奮い立たせてくれた。この匂いをバネに、私は人生で初めてちゃんと自分と向き合っていこうと思った。
幼い頃に思い描いていた24歳は気づいたら過ぎてしまったけれど、これからは幸せを待っているのではなくて自分で幸せになっていこうと決意表明ができたのだ。