バイト帰り、街中を歩いていると、どこかの家から漂う匂い。
コーンスープの匂い。
あれはレトルトか?
缶詰か?
それともコーンまるごと炒めたの?
トウモロコシの香りと、あの、缶詰コーン独特の少し変わった甘い香り。

コーンというだけで、思い出す、自らを魔女と呼ぶ食通の彼女

コーンというだけで思い出す。
今年から仕事を手伝わせてもらっている、自らを魔女と呼ぶ彼女。
大の食通だ。食いしん坊だ。
世界中の美味しいものを食べつくしてきて60年。
そんな彼女も時々100円寿司のコーン軍艦を食べたいという。

そういえば最近食べたあの子もトウモロコシの香りがしたね。
マコモダケっていう子。
タケノコみたいな食感とトウモロコシのような甘い味と香りがするんだ。
マコちゃんは秋田に来てから初めて知った野菜の一つ。

お世話になっているこの町のお父さんも、青森に行った時に買ってきてくれたこともあったね。
嶽きみ。トウモロコシの極みだと思った。マンゴー食べるときと同じくらいの幸福感が味わえる。

コーンってね、生でも食べられるものもあるの。
衝撃受けたのは今年の夏。新鮮プリップリのコーンだった。
牛乳で煮たコーンスープみたいな白い肌をした子。
生だとほんのり青い匂いがしてこれまた新鮮な味がする。

歩きながら感じる、生活の中の匂い。そして匂いに酔う都会

匂いっておもしろい。
嗅いで思い出すこともあれば、見て思い出すものもある。

バイト帰り、今日はなんだか歩きたかった。
秋晴れが素晴らしいのだもの。

歩いている時、横からきらっと光を感じた。
いたのはホースで花に水をやるおばさん。
ホースから優しいシャワーが出ている。
それが光をきらきらに輝かせているの。
優しく、花を痛めつけない水。
霧。
シャワーを見ただけで感じるのは、水の匂い。
あの、なんとも言えない、臭くもないけど綺麗でもない水の匂い。
ホースから出てくる水はいつも同じ匂いがする。
少し土とほこりと塩素の混ざった水の匂い。

匂いに酔う。
都会は忙しい。
鼻も忙しい。
通り過ぎる人、人。
それぞれから違う匂いがするの。
でもほとんどが繕われている。
匂いまで。
そのまんまで十分素敵なのにね。
私は繕うことをやめた。
そうしたら都会にはいられなくなった。

花の匂い。
お花をその場で嗅ぐといい匂いがする。
フワッと香る、おしゃれな香り。
ついつい摘み取りたくなってしまう。
でも全てのお花が摘み取った後も同じ匂いとは限らない。
部屋に置いていくと変な匂いに変わる子もいたりする。
死ぬのだ。
花も。
お魚で神経締めするのと同じだね。
美味しく新鮮に頂くには、ただただ命を頂くだけではいけない。
お花をドライにするのにも敬意を込めたやり方があるようだ。

窓を開けて走ると、フルーティーな香り。それは大好きな秋田の匂い

夕方の匂い。
秋口の夕方はなんだか、水の匂いがする。
少し冷えてきた午後16時くらい。
昼間暑かった分、夕方になり冷え込むと、空中の蒸気が水分に変わったりするのだろうか。
私は鼻につられてついつい水の近くへと引き寄せられる。
今日もそれで近くの雄物川へと車を走らせていた。
窓を開けて走らせていると、今度はフルーティーな香り。
土、酸、藁の匂いだ。
これだ、秋田の匂い。
私が大好きな匂い。
藁、と思うだけで頭に出てくるのは牧場で乳牛さんへあげていた餌の匂い。
発酵させた草たちはドライフルーツのような甘い香りになる。
牛さんたちが頬張る姿を見て、「私も食べてみようか」と毎回思ってしまうほど。

そうしていると川へ着く。
てきとうなところに車を停めて。
降りた瞬間に息を吸う。

ゆっくり息を吸うことを忘れがちな時に、深呼吸させてくれるんだ、この水の匂いは。
勝手に深呼吸してしまうくらいに、くせのある匂い。

まるで、私は雄物川に呼ばれていたかのようだ。
丁度よく川に映る、沈みかけのオレンジの太陽。

深呼吸をすればずっしりした空気が肺を満たす。
ここの匂いはちょっと湿度が高くて重たい。
私はちゃんとここにいる、ちゃんと自分の足で立っているって教えてくれる匂い。
少し落ち着く。

匂いでたどる日々の生活。
やっぱりここは落ち着く。
5年目の秋田。
日々思い知らされる。

自然には敵わないなあ~。