これは、美談や感動話などではなく、自分の愚かさとそれから来る後悔によって書かずにいられなかった過去の記録だ。
自分への訓示であり、あわよくば誰かの役に立てば幸いである。

入学式で偶然隣に座り、連絡先を交換したことが、彼女との出会い

短期大学の夜間部に通っていた頃の話だ。
入学式に30分以上早く到着した私は、腕時計をチラチラと見ながら一番後ろの列に着席し式が始まるのを待っていた。すると、ストライプのスーツを着た女性が隣に着席した。
私も彼女も緊張した様子で式が始まるのを待っていた。式が始まるまで20分以上残っていた。
式は、一般的な進行と同じで特に印象には残っていない。式が終わった直後、「よろしくお願いします」と彼女が緊張のほぐれた様子で、私に話しかけた。私も同じく「よろしくお願いします」と軽く頭を下げながら挨拶をした。
その後は、特に何をすることもなく、外で少し世間話をしていた。その話の中で、彼女が私より7つ年上だということと、日系4世であるということを話してくれた。
もう何度も他者に対して説明してきたかのように。彼女から連絡先を交換しないかと提案され、少し展開の速さに戸惑いながらも(この頃私は人間不信であったため)、悪い人ではなさそうに思えたので私もそれに応じた。
それからはよく二人で授業が始まる前にご飯を食べたり、カフェで話したりと行動を共にするようになった。一人暮らしをしていた彼女の家に行ったこともあった。

彼女の言動を不気味に思い、少しずつ距離が離れ、連絡も途絶えた

同じ時間を過ごすことが増えたことで、彼女がなぜ短期大学の夜間に通おうと思ったのか、今までどんな人生を歩んできたのか、当時彼女が交際をしていた彼に対する思いなどが会話の中で出てくるようになった。私には受け止められないような境遇さえも経験していた。
だからなのか、彼女の存在がとても私の中で大きくなっていき、私も当時悩んでいたことを彼女によく相談していた。
もしかしたら私の思い違いなのかもしれないが、この時彼女にとっても私の存在が彼女の中の一部になっていたのではないのだろうかと思う。
ある日、私に彼女から私の身を案じるメッセージを受け取った。「悪い夢をみた。あなたが心配だ」というような内容だった。
少し不気味な感じがしたので、その頃働いていたアルバイト先の先輩に相談したところ、少しおかしいのではないか、変な感じがするという返答を受けた。
当時の私は、以前からメッセージのやりとりが途絶えることが多い彼女に気を揉んでいたので、その時の先輩の言葉を信用してしまい特に返答することなかった。
そして、彼女が学校に来なくなったのはそれぐらいからだったのではないだろうか。夏休みが終わり、9月も下旬に近づいても彼女は学校に現れない。気になって連絡を入れても、「来週には出席する。大丈夫だから」というばかりでしまいにはそのまま1ヶ月以上経過し、私も自分の進路のことで手一杯だったので、気になってはいたがそのまま連絡も途絶えていった。

あの時いつものように冗談交じりに話していたら。自分の愚かさが憎い

年末のゼミで知ったのだが、彼女は家庭の事情で学校を退学していた。彼女の家庭の事情を知っていた私は大体想像がついた。彼女は家庭の事情とやらに巻き込まれていったのだ。
どうやっても私が入り込むことのできない事情だ。しかし、やるせなさと彼女のことを信じられなかった自分の愚かさが同時に私を襲った。
このSNSが普及している時代にも関わらず、彼女とはもう連絡を取ることができない。そんなことも起こりうるのだ。「信じることができなくてごめん」と謝ることができない。
あの時、いつものように冗談を言い合いながら、どんな悪い夢を見たのかを聞いておけばよかった。そんなことばかり考える。
どんな内容でもいい、忘れてしまっててもいい、ただ、あなたと夢の続きの話がしたい。