通っている大学は就活をする人が少ない。
学生時代から仕事をしている子、ネット上ですでに有名人で引く手数多の子、先生や先輩のツテがある子、大学院へ進む子、留年する子。

ツテも、名誉も、大学院や留学する金もない。
大学に通って残ったものは、2年間近く止まらない涙腺、毎晩金縛りで眠れない夜、途切れ途切れの人間関係。
心身ともにボロボロ。大学生活は、すでに焼け野原のようだった。
そんな報われない学生生活を成仏させようと、わたしは就活で取り返そうと躍起になった。

みんな真面目で、自信がない。そこが狙い目で私は面接まで進めた

エントリーシート、履歴書を書くのは得意だった。
人事の人が膨大な量の資料に目を通すことを考えると、必要なのはじっくり読んでもらえるためのインパクト。習字をやっていたことを生かし、筆で書いてみたり、過去の実績をコラージュ作品にして送りつけたり、とにかくインパクトに特化して送りまくった。作戦が功を奏したのが、高確率で面接に進むことができた。

1次面接は、集団面接が多かった。これも、わたしにとってはチャンスだった。
特にラッキーなのは、1番目と最後。
1番目はとにかくトリッキーで行動力があることをアピール。唯一無二の存在感を演出し、次の人にプレッシャーを与える。最後は全員のキャラクターとその場を空気を分析し、その場で一番印象に残るキャラクターを演じる。
ここでも印象に残ることが大事と考え、何百人もの学生を見てきた面接官をいかに楽しませるか、笑わせられるか。ゲーム感覚になることで緊張とプレッシャーを軽減することができた。どの学生も、みんな真面目で、自分に自信がない。そこが狙い目だった。

わたしの快進撃は続く。あれよあれよと次の面接へ進めた。しかし、快進撃はすぐに終わった。最終面接の手前でどうしても落とされてしまう。

私を否定し、セクハラする面接官たち。面接は嫌な思い出ばかり

面接では嫌な思い出ばかりだった。
やりたいことを話すと「へえ~、今時そんなのことやりたいの?死ぬほどやり尽くされてるけどね」と否定する面接官。お前の価値観の何がそんなに偉いんだ?
カラオケが好きで、得意な曲は山口百恵だと言うと「じゃあ歌ってもらおうかな~?あ、これってセクハラ?パワハラ?」と言うジジイ面接官。セクハラだよっていちいち教えてあげないとわからないのか?
今まで作ったものを見せると「こんなの社会で通用するわけないじゃん」と言い放つ面接官。いや、それを社会に通用するように教育するのがてめえらの仕事だろ!?

面接が減っては増え、増えては減り、そんなことしてる間に1人、また1人と内定されていく。ついには唯一、一緒に就活していた友達の内定が決まった。

まるで誰からも必要じゃないと言われているような感覚になる。何を喋っても誰にも聞こえていない、もう全てが誰にも響かない、無駄なもののように思えた。

やっと決まった最終面接の議題は「この中で1人だけ誰を落とすか」

心が挫けそうになっているわたしに、やっとの思いで最終面接が決まった。グループ面接からの社長と会食、という珍しい面接スタイルだった。
最終面接に残ったのはわたし含めて5人。わたしともう1人が女の子、あとの3人は男の子。
最初は人事部の面接官とのグループ面接。もう1人の女の子が名言を連発してかなり空気が食われた。焦って頭の中で考えが巡りすぎて口が回らない。うまくできない。何も爪痕を残せないまま終盤に差し掛かった。
最後はグループディスカッション。議題は「この中で1人だけ誰を落とすか」。

問答無用で一斉に4人の人差し指がわたしを差した。
「自分のPRが弱い」「言っていることがよくわからない」「言いたいことがちゃんと言えていない」「内向的な性格が仕事に向いていない」。コテンパンな言われようであった。
当然である。
自分をギリギリ支えていた、根拠のない自信が粉々に砕け散る音がした。

その後、社長との会食。豪華絢爛な高級中華料理屋の個室に通される。
人事の方2人、社長、最終面接の学生5人が円卓を囲む。高級中華をつまみながらフリートークをしていく。社長が学生1人1人に順に話を振っていく。
そろそろ自分の番か、と思った頃、社長がお手洗いに立った。戻ってくるも、わたしを飛ばして別の学生に話を振る。わたしが他の学生の話を広げたり、社長に話を振ったりするが、回答してくれない。
完全に無視されている。静かに円卓の隅で泣きながら、高級中華を頬張る。味は、しない。

就活で最終面接まで行って社長と高級中華で会食したものの、ガン無視されたことがある人、いたら友達になりましょう。

「会社で働きたい」と思ったことはないのに、気持ちをねじ伏せていた

ある日、短期のアルバイトをすることになった。
デパ地下で期間限定のお惣菜を売るアルバイトだ。そこで出会ったかなり珍しい苗字のおばさまと一緒になった。
仕事のやり方も丁寧にするところ、雑でいいところ、メリハリをつけて教えてくれた。とても話しやすい人だった。今何をしているのかと聞かれたので、就活がうまくいかないことを話す。

「いいじゃない。就職しなくても誰か傷つけたり、迷惑かけてるわけじゃない。保険とか年金だって自分でやればいいし。いいじゃない」
脳を鐘つきでぶん殴られたような感覚になった。
そう、わたしは「会社で働きたい」なんて思ったことはなかった。そう思うべきじゃない、と本当の気持ちをねじ伏せていることに気づいた。

本当はジャンルに囚われずものづくりをする人になりたかった。現実味がないそのビジョンと向き合うのを、鼻から諦めていたのだ。
わたしが就活していたのは「周りに自分はすごいと認めさせることで学生生活を取り戻すため」だった。
負の原動力は確かにパワーはあったが、限界は早かった。追い詰められると、どんどん本当の目的を見失い続けた。

「なんで就活するのか?」
一度、ちゃんと自分の心の声に耳を貸して欲しい。
理由がいくら他人にバカにされそうでも、恥ずかしくても、ちゃんと向き合ってみて欲しい。1度向き合うことから逃げたシワ寄せは必ず人生のどこかで来る。
その結果、就活をしないことだって、就活を頑張ることだっていいじゃない。誰も傷つけたりしてないんだもの。
いつでも、あなたの答えが正解だ。