「幽霊なんて見えるわけないじゃん」
この一言がけんかの始まりだった。今でもはっきりと覚えている。
私は当時、小学4年生で音楽室に向かって移動していた。隣には親友のO子がいて、「音楽の授業楽しみだね!今日は何を歌うのかな?」なんて他愛のない会話をしていた。
すると、ふとO子が立ち止まり、窓の方を見ながら言ったのだ。
「幽霊が見える!」と。
本当は霊能力があったのではと考えたけど、きっと今回も冗談だろう
私にはもちろん見えなかった。だから、「幽霊なんて見えるわけないじゃん」と私はO子に向って笑いながら言った。すると、彼女は急に不機嫌になり、一人で音楽室に向かって歩き始めてしまったのだ。
私は後を追うように音楽室に向かった。O子は相当怒っているようだ。
音楽の授業中、ずっと考えていた。「O子には、本当は霊能力があったのではないか?」と。
しかし、今までそんな話を彼女の口から聞いたことがなかった。O子と私は親友で、いつも一緒に行動していたし、互いの秘密も共有していた。霊能力があったのなら私に話してくれていたはずだ。それに、O子は元々、冗談じみたことを言う癖があったので、今回もその冗談だと思った。怒っているのも演技で、私の反応を見て楽しんでいるのだと。
だから、あえて私は平気なふりをして、音楽の授業が終わっても、O子に話しかけには行かなかった。どうせ明日には「おはよう!」って向こうから声をかけてくるに違いない、そう思っていたのだ。
しかし、次の日も、また次の日も、O子は話しかけてこなかった。むしろ私を避けているようだ。私もなんだか気まずくて、自分から話しかけにはいけなかった。
あの日を境に私たちは「親友」から「ただのクラスメイト」に
結局、あの日を境に私たちは「親友」から「ただのクラスメイト」になってしまった。もう一緒に笑い合うことも、遊ぶこともない。「幽霊が見えるか・見えないか」なんてくだらないことで、関係が崩れるなんて、こんな終わり方あっていいのだろうか。
だけど、仲直りは出来なくて、そのうち、お互い新しい友達ができた。そして、お互いのことを気にしなくなっていくのを感じた。
その後、O子と私は中学・高校と一緒であったが、すれ違いざまに挨拶を交わす程度で、話すことはほとんどなかった。そして高校卒業後、私は大学、O子は専門学校へとそれぞれ進学し、とうとう会うこともなくなった。
もう関わることはないだろうと思い、先日思い切って彼女のLINEを削除してみた。自分でもびっくりするくらい何も感じなかった。小学4年生のあの日まで、私たちは確かに仲が良かったはずだ。なのにどうしてだろう、けんかする前の楽しかった記憶は、もうほとんど残っていない。残っているのは心のモヤモヤだけだ。
もしまた会えたなら、彼女に聞きたいことがある
私は時々、あの日のことを思い出す。そして、あの時私が「ほんとだ!幽霊がいる」とか、「幽霊が見えるの?すごい!」とか、何か他の言葉を言っていたら私たちは親友のままだったのではないかと考える。そのたびに、彼女との楽しかった記憶が微かに思い出されるような気がした。
結局O子に霊能力があったのかどうか私はわからずにいる。いや、きっとないだろう。
でも、もしO子とまた会えたなら、その時は聞いてみようと思うのだ。「まだ幽霊見えてる?」と。
O子が笑いながら「幽霊なんて見えるわけないじゃん」と答えてくれるのを期待して。