私は昔から、家族以外の人に対して言いたい事が言えない性格だった。口下手で上手く発言をする事ができず、「あの時伝えておけば良かった」「本当はあの時こう伝えたかった」などと後悔したことは数知れず。仕事でも、プライベートでも。
そんな私が、今一番「この事、伝えられなくて残念だったな」と思っている相手は、母方の祖父だ。

祖父の病状がみるみる悪化した直後、今も「伝えたかった」事ができた

私は母方の祖父母にとっては唯一の孫娘で、祖父は私が幼い頃、特に可愛がってくれていた。明るくておおらかで、太陽のような人だった。
しかし、そんな祖父はもういない。去年の秋に末期ガンと診断され今年の3月、病院で息を引き取った。驚くほど、あっという間だった。最後に会ったのは去年の年末。横になっているだけなのに肩を軽く上下に動かして呼吸をしていたが、会話するには問題なく、またねと別れた時、これっきりになるとは思わなかった。そしてこの時はまだ、祖父に対して伝えたいと思っていた事はなかった……。

年が明け、祖父の病状はみるみる悪化していったようだった。自力で歩けなくなり、食欲も落ち、体重は一気に減ってしまった。2月1日、祖父は肺に溜まった水を抜く為、2週間の予定で入院する事になった。私達は、祖父はまた戻ってくると思っていた……。
祖父に対し、今も私が「伝えたかったな」と思っている事ができたのはこの直後だった。

祖父が入院した数日後、職場の関係者からお見合いを勧められ、その相手とお付き合いをする事になったのだ。私は異性に対しなんとなく苦手意識があり、それまで付き合ったことがなかった。だがその相手の方は優しく穏やかで、すぐに打ち解ける事ができた。結婚を前提としたお付き合いは続いており、今度彼の実家に行くことになっている。

祖父もきっと喜んでくれる報告だから、いつか退院できる日を待った

入院中の祖父に、その事を伝えたいと思った。「彼氏ができた、とても素敵な人だよ」と。
だが、コロナ禍で面会は禁止されており、祖父は電話を使う事もままならない状態であったようだった。
それから入院予定の2週間が過ぎたが、母によると、肺の水を抜いてはいるが同じくらいのスピードで水が溜まっており、とても退院できる状態ではないとの事だった。私は待った。祖父に報告できる日がくるのを。この事を聞いたら祖父はきっと喜んでくれる、そう思って。

3月になった。祖父は病院で89歳の誕生日を迎えた。病室で、家族の誰にも会えないまま……。
そのわずか2日後、病院から面会の許可が出た。祖父がいよいよ危篤状態になった為、配偶者と子供達だけは会っていいとの事だった。孫である私は会えなかった。もっとも、その日はもともと仕事だったが……。

祖父が夢に出たら伝えたい。彼の事、そして「」ありがとう」の一言を

仕事から帰宅した時、母から祖父が呼吸をするのも苦しそうだったという話を聞いた。そしてそれからわずか3時間後、祖母から祖父がなくなったという電話がかかってきた……。

もし、あともう1ヶ月、いや2ヶ月早く、彼と出会っていたなら。祖父にも彼の事を報告する事ができたのだが……後悔、という物はないが、ただ残念だ。母方の祖父母には、彼の事を伝えたかった。ちなみに祖母には祖父がなくなった後に彼の事を伝えたが、喜んでくれた。
遠くないうちに会わせたいとも思っている。

祖父がなくなり7ヶ月が経った今も、未だに消えない「伝えたかった」という気持ち……もし祖父が夢に出てきたら、その時に伝えたい。
彼の事、そして一言、「今までありがとう」と。