ザーッ、ザーッ。ピチャン、ピチャン。どうやら、外は雨が降っているらしい。音で雨を感じる。

私はベッドに横たわり、腕には点滴の針が刺さっていた。病院の大部屋に入院していて、自分のスペースには窓がない。外の景色を見ることができないため、隣の人が開ける窓から聞こえる音で天気を把握することとなる。

アレルギー反応でアナフィラキシーが起き、入院することになった

雨か……。外はどんな風になってるんだろう。携帯で天気を確認し、改めて雨だと分かって自分の耳は、感覚は、鈍ってないと安心しながら目をつむって考える。入院してから、もう1週間か。

花粉症がひどい私だが、ある休日の朝、突然、身体中に蕁麻疹が出て、喉や顔も腫れて、息苦しくなった。かゆい、かゆい、苦しい。なんじゃこれは!? 痒み止めの塗り薬を至るところに、ぬりぬりして、引いてきた、落ち着いたと思ったら、食事をすると、またぶわぁーっと蕁麻疹が広がり、顔がぱんぱんになる。

次の日、何とかして会社に行こうとするも、途中、腹痛、嘔吐にも襲われ駅のトイレでダウン。上司に連絡して、会社を休み、病院に行くことになった。何も食べてないのに水さえ吐く状態。そして、点滴。そして、別の病院に入院。

「アレルギー反応でアナフィラキシーだね」と、医者に言われた。花粉症から食物アレルギーになることもあるそうだ。抗ヒスタミン薬やステロイドの点滴を打ってもらい回復するも、水や病院食のお粥に再び反応してしまい1週間絶食。点滴だけで過ごすことになった。

その後、専門病院に転院。血圧を測りながら、病院食を食べさせてもらえた。ああ、ごはんがおいしい! 食べられることって、なんて幸せなんだろう。そして、なんとか特定のものを除くと食べられることが分かり、症状も回復して無事退院することができた。

ああ、神様ありがとう。入院中、家族や職場の人たちに迷惑をかけまくったが、みんな温かく励ましてくれた。ああ、みんなありがとう。

仕事も趣味も「あれしたい、こうしなくちゃ」って欲張りになっていた

退院後、満開になっている桜を見て、春を体で感じることができた。また雨も、地に足をつけて、傘を手に持ち、体全体で味わうことができた。普段はさらりと流す、雨の風景も、病院の外に出てから、ああ、私は当たり前の生活に戻れたんだと実感することができた。

いつも欲張りの自分。仕事も趣味の創作も。あれしたい、こうしなくちゃって思いつめて、実は無理をしていたのかもしれない。ストレスや疲れがたまると、アレルギー反応が過敏に出ることがあるらしい。

食物アレルギーは結構やっかいで、私の場合、小麦、卵、大豆に反応してしまっている。今までは普通に食べられていたのに。大人になってから発症するなんて。スーパーで商品裏の原材料欄と、にらめっこする日々がくるなんて思ってもみなかった。

パンが食べたいけど、スーパーやパン屋に米粉パンを置いているところは少なくて。食物アレルギーの人の大変さや、不便さを当事者になって初めて気づいた。加工品には一部に小麦、大豆が含まれていることがほとんどで。「ああぁー!!食べられなーい!」って心の中で叫んで文句を言ってしまうこともあった。

でも、傘に当たって跳ね返る雨を見ていたとき、はっと、病院で雨の音だけ聞いていたときのことを思い出す。ああ、私はまた欲張りになっているのかもしれない。

入院して当たり前の生活を送れる「ありがたさ」を感じることができた

水も飲めるようになったし、ごはんも食べられるようになったし、外に出て景色を楽しむことができた。入院中は朝6時起床、夜9時半消灯という健康スタイル。おかげさまで夜型人間だった私は、すっかり朝型になった。そして、体がだいぶ楽になった。

同じように入院しているどこかのおじいちゃんと、廊下ですれ違ったときに話をするのも楽しかった。母が忙しい中、病院に着替えを持ってきてくれたり、飼っている犬の写真をLINEで送ってくれたり。看護師さんも新型コロナで殺伐とした病院の中で、優しく対応してくださって、すごくありがたかった。 

入院して辛かったけど、食物アレルギーもショックだったけど、今できることは増えてるんじゃないか。私はすごく恵まれてるんじゃないか。入院して、改めて当たり前の生活を送れるありがたさを感じることができた気がする。

この際、アレルギーについて勉強しよう。アレルギー対応レシピを検索し、さてさて、どうやって作ろうか。大変さもあるけど、どうせなら楽しんでやろうと思う。そして、スーパーで米粉を買った私は明日、チヂミを作ろうとしている。