私は誰よりも辛い人生を送っている。神様は不公平だ、と君があんまりにも嘆くから、私はふと、君の人生をスタンプラリーだと考えてみた。
君がこの世に産み落とされた瞬間、“人生のカード”が配られ、有無を言わさずにスタンプラリーがスタートする。人によって貰うカードの枚数はそれぞれ違い、スタンプの集め方も十人十色。
このお話のはじめに、どうしても言っておきたいことがある。
重要なのは、どんな人が君をこの世に産み落としたかではなく、カードを受け取ったのは自分自身、ということだ。
産声をあげた日、君は手元にあるカードの枚数の多さに絶望した
さて、産声をあげたその日。
君は自分の手元にあるカードを見てから周りを見渡し、絶望する。
「どうして私だけ、こんなに枚数が多いの?」と。
小学生。
クラス内でチョコレートのおまけ収集が流行り、箱買いをした、と喜んでいる隣の席の子を君はじっと見ている。家に帰り、母に恐る恐るおねだりすると「あっち行ってなさい」と取り合ってもらえない。
後でおばあちゃんがこっそり1つ買ってくれるけど、母に買ってもらいたかった君は泣き喚き、おばあちゃんを困らせてしまう。
高校生。
推薦組がさっさと進学先を決めて遊んでいる中、本当は志望校なんてひとつもなかったけど大学受験のために勉強をする君。目標があればとりあえずそのことだけを考えて、ただ努力すればいい。家庭の問題から目を反らすための目標だ。
もちろん、自分の人生が最優先の家の人たちには相談できず、毎日遅くまで予備校に残って時間をつぶす。
大学生。
恋人ができるけど、愛がなんだか分かっていない君は、彼から暴力を振るわれても、お金を要求されても、3番目くらいの女でも、インスタ用のお飾りだとしても、必要とされないよりはよっぽどいいと、平然と笑っている。
社会人。
次こそは、と君は意気込んで「期待しているよ」という上司の言葉と共に投げ渡される業務につぶされそうになりながらも、本来の目標なんてとっくに見失って、社内の期待に応えるためだけに精一杯、休む間もなくがむしゃらに働く。
他社員からのいじわるや理不尽に、分からないフリをしているけど本当は傷付いている。平日は日付を超えるまで残業、休日は心配性がゆえに下調べをしておくのは当たり前。
「寂しいと叫んでみなさい」。全て捨てたくなったときある人は言った
小さな優しさが他人を救うことを理解していて、他人には優しくありたい。
でも、忙しい中で優しさを保つのは大変で、社会人が他人に冷たくなっちゃうのも理解できるからこそ、君はどんなに忙しくたってせめて私だけは、と自分を追い詰めていく。
しかし、ある日、心に蓋をしていた感情が溢れかえる。すでに君のカードは寂しさで穴だらけで、それを仕事で埋めようとすればするほど、逆に穴は増えていたのだ。
無条件に愛されるはずの人たちから愛されず、寂しい思いをした過去から逃げ切ったと思ったら、大人になってからも、この先も一生戦うことになるなんて。
だったらもう、こんなカードなんて、全て捨ててしまいたい。
そんなとき、ある人に告げられる。
寂しさから逃げず、まずは寂しいと叫んでみなさい。
そうすれば、理解してくれる人が現れ、助けてくれるでしょう。
声をあげることは、我が儘ではありません。
だって、そうしなきゃあなたが悩んでいること自体、誰も分かりませんよ。
ダメもとで一声をあげると仲間が集まり、大量のカードは武器に変わる
君は、最後にダメもとで小さな一声をあげると、一緒にカードの穴を埋める仲間が集まり、その大量のカードは逆に武器に変わる。
大人になってから改めて周りを見てみると、少ない枚数に要領良くスタンプを集められる人はたくさんいたけれど、スタンプ付きの大量のカードを持っている人は誰もいなかった。
だから、君の強みは、人よりも多く困難を乗り越えた経験と、ここまで耐えた抜いたという根性。さらに欲しがっていた優しさは、知らず知らずのうちに手に入れていたのだ。
寂しさを乗り越え生きてきた、私が自慢に思う君は、今の私だ。