「……あのさ、痩せる予定ってある?」
1か月を経た今でも強く脳裏に焼き付いて離れないこの発言は、最近別れた元カレに突き付けられたものだ。
思えば、容姿のことを指摘されたのはこれが初めてだった。私の周りの人は今まで優しかったんだなと思う。ありがとうみんな。
別れた今なら「ふざけんな、自分のことを鏡で見てから言えよ」と真顔で言えるのだが、その時久方ぶりの恋で頭がばかになっていた私には、半泣きになりながら「そういうことは人を傷つけるから他の女の子にはこの先一生言うんじゃない」と「自分も傷つきましたよ」ということを遠回しに伝えることしかできなかった。

「○○する予定ってある?」の名のもとに、私の心を切り取っていく

この「痩せる予定ってあるの事件」が、もし私の愛すべき友人達の誰かに起こっていたなら、そしてもしそれを私に話すことがあったなら速攻で「そんな男ろくなもんじゃないから別れろ」といえるのに。
その時の私は意気地なしで、傷つきながらも笑いをとって彼の発言を許した。
そしてその時から、気が付けば私は彼の視線を気にするようになってしまったのである。

怖かったのだ。
姿勢、笑い方、箸の持ち方、ラインの返信速度、ありとあらゆるものが「○○する予定ってある?」の名のもとに、アドバイスの形で私の心を少しずつ切り取っていくから。
そして「思っていた感じと違った」とかなんとか理由をつけて、私はあっさりとお役御免になった。つまり振られた。正直、全然納得できなかったんですけど。

夜中にAsheのmoral of the storyを聴いて、泣きながら自分の反省点を挙げまくる毎日。
突っ走りすぎた?かっこいいって言っちゃだめだった?料理がまずかったとか?
自分で自分のだめなところをひたすら反省していくのは心を疲弊させる。しかも答えは持ち合わせていないのだ。考えても考えても正解なんて出てくるわけがない。

夜中に自分の悪口大会を開いてまで、自分を嫌いになりたくないんだ

そうやって夜に泣いていたある日、私はひとりごとで無意識に「考えたくない……」とこぼしている自分に気づいた。
なんで?自分の悪かったところ考えないとダメじゃん。振られたんだから。

心の中でとっさにそう返すと、自分の口からぽろりと本音が出た。
「これ以上自分のこと嫌いになりたくないよ……」

あぁ。あぁ、そうか。私は夜中に私の悪口大会を開いてまで、自分のことを嫌いになりたくないんだ。思ったより自分のこと好きだったんだな。

そう思った瞬間、今までの比じゃないくらい涙がでてきて、しかも嗚咽までしてしまい自分でもびっくりした。

彼の理想にはなれなかった。痩せてもないし、ずぼらだし、夏休みに卒論なんてとんでもないと書こうともしない女だった。
でも。でもね。私は自分のこと結構好きなんよ。いやなところもたくさんあるけど、でも嫌いになりたくないんよ。

隙あらば運動せずに痩せようとするし、ダイエット中なのにタルトタタン作っちゃうし(しかも美味しくできた)、でもこれが私なのだ。
運動大好きで、お菓子なんて見もしなくて、彼氏のために痩せようとする私は私じゃない。
ありのまま愛されるなんて幻想なのかもしれないけれど、貴方の隣にいる私を私はどんどん嫌いになっていってしまう。

その日の夜、私は初めて心の底から「別れてよかった」と思うことができたのだった。

貴方の理想ではないかもだけど、自分のことが案外好きだと気づけた

失礼を承知でいえば、私を振った彼は自分に自信がなかったのだと思う。自分に自信があるひとは他人の容姿なんてどうでもいいだろうから。
そして多分、わりと今の自分が好きでマイペースな私にいらいらしたことだろう。
ごめんね。あんまりごめんとは思ってないけども。

今だってまだ、彼のことで胸が痛まないわけじゃない。
むかついたり悲しかったり寂しかったり、いろいろだ。

でもこれだけ言わせて。
私は貴方の理想ではないかもしれないけれど、自分のことが案外好きだと気づけた私のことを自慢に思ってる。
そしてこれからも努力して「自慢したい私」を更新し続けるね。
お互い、自分磨き頑張って、それでいつか「この人の隣にいる自分が好きだ」と思える相手が見つかるといいね。
じゃあいつかどこかで、また。