私の就活はとても慌ただしかった。大抵の人が就活の準備を始めるであろう大学3年の12月頃、私はフランスに留学していた。
1年留年するという選択肢もあったのかもしれないが、単位は取り終わっていたので、帰国後すぐに就活を始めた。
多くの人が就活を終え始める5月下旬だった。

焦って流されるまま始めた就活。よく考える時間すらなかった

スタートが遅れていた分、私はただただ焦っていた。
最低限準備はしていたつもりだったけれど、自分がどういう会社に入りたいのか十分に理解しないまま、流されるままに就活していた。
時期的に会社側の採用活動が終盤に差し掛かっていたためか、「説明会に行く=エントリー」というような選考方法がほとんどで、その会社に入りたいかどうか考える時間すら与えられていなかった。私はどうしても、とりあえずエントリーしてみるという感覚に馴染めなかった。
メールを開けば毎日就活エージェントからおすすめの会社情報が大量に送られてくる。どういう基準で表示されているかもわからない様々な会社の情報を、見れば見るほど方向性がよくわからなくなっていった。
そんな中でもいくつかの会社にエントリーした。数少ない学生時代の経験を、少し誇張しながらエントリーシートに書いた。
面接では、その会社に入ったら自分が何をするのか少しも理解していないのに、「御社に入社することができましたら、努力を怠らず精一杯頑張ります」なんて中身のない決まり文句を、胸が締め付けられる思いで語った。

「それだけ?」と言われて、面接で自分の経験を語ることが嫌になった

そんな時、ある会社の面接で私は完全に心が折れてしまった。
留学したことを面接で話したのだが、留学中最も大変だったことは何かと面接官に聞かれ、私の答えに対してその人はこう言った。
「それだけ?」と。
その瞬間、私の中にあった自信というものがすべて崩れ去った。今すぐにでもここを抜け出したいと思った。
きっとその面接官は私の耐性を見ようとしていたのだろうけれど、その面接以降、ホントのような嘘をついたり、「それだけ」と言われた数少ない自分の経験を語ることに嫌気がさしてしまった。
何も就活でアピールするためにバイトをしたり、留学をしたりしてきたわけではないのに、それらの経験がまったく無意味であったように感じられたのだ。
それでも何社か内定をもらった。その中から1つを選んだ理由は、社長の話を聞いて面白い人だと思ったからだった。3か月ほど精神的なしんどさと闘いながら続けた就活だったが、最後は直感であっけなく決めてしまった。

自分の経験を誇張して伝える練習を重ねた就活。そこに意味はあった?

その会社も入社3年目になった6月に辞めた。
理由は会社側にあるというよりは、自分の心のコントロールがうまくできなかったことが原因だ。毎日毎日自信と気力を少しずつ削りとられながら続けた就活の末路が今の状態だと考えると、少し悲しくなる。
できれば就活はもう二度とやりたくないと思っていたのに。
就活では、自分をアピールするために一生懸命自分の経験をひねり出して、面接官によく思われようと、大したことのない自分の経験を少し誇張して伝える練習をした。
でも、本当に必要だったのは面接に受かるための自己分析ではなくて、どんな時でも自分を支えることができるようにするための自己分析だったのだと思う。
自分が辛いとき、苦しいとき、周りの人が心配して声をかけてくれても、自分がしっかりしていなければその声はまっすぐに届かない。周りの人に「ちゃんとできているから大丈夫」と言われても、自信がないと親切な言葉すらお世辞に聞こえてしまうからだ。

就活生にも選ぶ権利がある。「私なんかどうよ」でちょうどいいと思う

結局、能力があってもそれを生かすか殺すかは自分なのだ。どんな会社でも活躍できる人というのは、自分の芯をしっかり持っている人なのだと思う。そういう人はちゃんと自分を理解している。自分がどういう状況だと頑張れて、どんなことが嫌いで、何をしたら慰められるのか。
自分がどんな人間であるか十分知っておけば、自分にとって何か大変なことが起こったとき、それを乗り越えることができる。
自分のことを深く知ろうとすることは、会社に入ってからでも遅くはないと思うけれど、これから就活をする人には、できるだけ社会人としてのスタートを良い形で切ってもらいたいと思う。
そういう人たちのために私が一つアドバイスするとすれば、「自分はこんな素晴らしいことをしてきたんです」ではなくて、「私はこういう人間ですけど、こういう人間、おたくの会社ではどうですかね?」ということを語れるように、一生懸命自己分析しなさいと言いたい。
採用する側だけではなくて、就活生にも会社を選ぶ権利があるのだ。だったら、少し上から目線で「私なんかどうよ」と言えるくらいがちょうどいい。