ちょっとだけ周りの子よりもぷくぷくだった小学生の私は、中学に上がるにあたって、幼馴染と陸上部に入部した。その時は体作りができれば良いなくらいの軽いレベルで、長距離を選択した。
まぁこれがしんどいしんどい。毎日の練習は鬼のようにキツかったし、入学したての私は体力も少なく、毎日お腹ぺこぺこで帰宅していた。

中学生の時、同じ陸上部で一つ上の先輩に、私は恋をした

当時、長距離を専門とした生徒は男女ともに少なく、なんだかんだ団結力ができていた。そんな時、私は一つ上の先輩が好きになっていた。初恋だった。
いつからとか、こんなことがあってとか、ある出来事があって好きになったというわけではない。本当にいつのまにか、その先輩が好きになっていた。最初は幼馴染に「あの先輩かっこいいよね」とか言う程度の憧れの気持ちだったのに。

好きを自覚してからは、毎日の生活が、あんなにキツかった練習が楽しくて仕方なかった。だって先輩に会えるから、練習してるかっこいい姿を見ることができるから。
メガネ外した時のギャップとか、一人で悶えてた。大会では誰よりも応援してたと思う。「お疲れ様です!」って言った時に返してくれる笑顔だけで、私は今日召されてもいいな、なんて思ってたのがとても懐かしい。
先輩の卒業式に絶対に告白して、先輩と同じ高校に行くんだ! と決めていた。

そんな時、ある冬のイベントに私たち長距離グループで参加した時があった。先輩と同じチームとして走れるとウキウキしてイベントに参加していたが、幼馴染に声をかけられ、その気持ちが一瞬にして消えた。「悲しむと思ってずっと言えなかったんだけど、先輩、今度の春に引っ越すんだって」。
みんな私の気持ちに気付いて、ずっと黙ってくれていたらしい。「もっと早く教えてくれよ」なんて幼馴染にそんなこと言えるはずがなく、どんな返事したのか正直覚えていない。覚えているのは、その後すぐにトイレに行って、一人で泣いたこと。

もうすぐ好きな先輩が引っ越す?私の気持ちは落ち込んでいた

その日から私の気持ちはずっと落ち込んでいた。でも、先輩に思いを伝えるなんて勇気が出ることもなく、いつも通り、変わらない私を演じて練習に励んだ。むしろ忘れたくて練習にのめり込んだ。先輩自身も、来春が最後の試合だと分かっていたので必死に練習していた。
迎えた最後の春の大会。3日間あった大会のうち、2日目の午後に引っ越すと聞いていた。そんな大事な大会の3日前に、私は高熱を出して練習に参加できなかった。復帰できたのは、先輩が引っ越す大会2日目の日だった。

微熱があったけど、親に平熱と嘘をついて大会に参加した。当然コンディションは最悪で、結果はボロボロだった。声も枯れていて、先輩の応援もほとんどできなかった。
でも、先輩の最後の勇姿を見ることができただけで、本当に行って良かったと思う。結局思いを伝えることがなく、大会は終わってしまった。後片付けを私たちが行う必要があったため、先輩方は先に帰宅してしまっていた。
告白する勇気も出ず、さよならを告げることもできなかった私に幼馴染は励ましつつも、私たちは帰宅するために電車に乗っていた。

そうして最寄り駅のホームに降りた時、なんと先に帰宅していた先輩たちがいたのである。まさに新幹線に乗る前の最後の別れを告げていたのである。
驚いて立ち止まってしまったけれど、すぐに持ち直し、「お疲れ様でした」と一言私は先輩たちに声をかけた。寂しさと悲しさと悔しさが詰まった涙が溢れ出そうだったけれど、我慢して帰ろうとした時、先輩が私の名前を呼んだ。
驚いて振り返ってみれば、私が大好きだったあの笑顔を向けて、私に手を振ってくれていた。私は大きな声で「ありがとうございました!!」と言い、深く深く礼をした。そうして先輩は新幹線のホームへと歩き、はるか遠い地へと行ってしまった。

先輩に感謝の気持ちは伝えられたけど、好きって想いは伝えられなかった

私はボロボロ涙を流して家へと帰った。一生分泣いたんじゃないかと思った。幼馴染は何も話さなかったけど、背中をさすってくれていた。家に帰った私はまた熱がぶり返して、3日目の大会を棄権した。
体調が良くなって久々に練習に参加した時、当然いない先輩にまた悲しさが募ってしまった。だけど、楽しかった練習を思い出せば、なんだか頑張れる気がした。
それにこの春からは私も先輩となって、後輩を支えていかなければならない。いつまでも引きずることができない、と心から思えた。

その後中学を卒業し、高校も陸上部に所属した。たくさんの思い出ができ、今は大学生になった。今の生活がとても楽しい。大変なこともあったけれど、なんとかうまくやれている。
あの輝かしい部活の日々を思い出すと、懐かしさと切なさと幸せだったと思うことができる。今日もまた、私は頑張れる。
きっと先輩も楽しい大学生活を送っているんだと思う。とても頭のいい人だったし、かっこよかったから彼女もできたんじゃないだろうか。次の春からは社会人だ。きっと素敵な人生を歩むんだと思う。そうなることを心から願っている。
あの日言えなかった好きという気持ちはもうないけれど、また会えたら心からお礼をもう一度言いたい。先輩、本当にありがとうございました。