配信アプリをインストールしたのは、なにか特別な理由があった訳ではなかった。
就職活動で落ち込んでいたのかもしれない。
配信なんて初めて聞く。
顔も知らない誰かと文字を通してお話する。
不思議だった。

Twitterも登録。私は完全に彼のファンになっていた

その中で私はひとつの配信に行きつく。
声からして男の子。
これから友人と花火大会にいくと話していた。
その配信はそんなに人が多くなく、気がつけば私1人になっていた。

配信者と私2人。
文字と声での会話。
不思議だったけど、彼のユーモア溢れる話し方に私はずっと笑っていた。

それから私はその人が配信をすれば、よく行くようになっていた。
毎回、ユーモアたっぷりで話す彼の話で、いつも気持ちが明るくなった。
いつの間にか私は彼のTwitterの登録もして、完全にファンになっていた。

それからしばらくして、私も配信を始めた。
最初は恥ずかしがったけど、配信に来てくれる人とお話することが楽しくて、気がつけば私の配信には色んな人が来てくれるようになった。その中には例の彼もいた。

彼は私の配信のファンだと言ってくれた。
俺も結みたいな配信者になりたいと言ってくれていた。
お互いがお互いの配信に行くようになり、仲良くなっていくのに時間はかからなかった。
彼と沢山話をした。
私が仕事を始めて落ち込んでいると、いつも励ましてくれた。
お互い知らないことはないんじゃないかと自惚れるくらいだった。

彼の基本的なことは何も知らない。なんて返したらいいか分からずに

そんなある日。
私の配信中。
「あいつ、妬いてるよw」
彼のことも知ってるリスナーのコメント。
意味がわからなくて聞き返しても、自分で聞いたら?と教えてくれない。
配信後、DMしてみると、なんでもないと言われるも歯切れが悪い返しが続く。
何となくぎこちないラリーが続くと
「電話してもいい?」
と彼からDM。ドキッとしたけどファンだったし嬉しかった。

電話を取ると聞きなれた声で言われた。
「最近ファンとしてっていうか……普通に好きみたいで……でも困らせると思って言えなかった」
いつも面白い彼のその歯切れの悪い言葉が私の頬を熱くした。
「困ってないよ……ありがとう」

嬉しかった。だけどそれしか言えなかった。
何も知らないことはないと思っていても、私は彼の基本的なことは何も知らない。
彼の写真じゃない本当の顔とか背格好とか。
彼の好きな物とかハマっているものとか、そういうものならいくらでも言えるのに。
だから、なんて返したらいいか分からなかった。

彼に彼女ができたと知った。スマホの画面には涙がポツポツと流れた

それにもし、両思いだからって付き合える?
周りになんて言うの?
配信で付き合ったっていうの?
恥ずかしくて言えなかった。
だから私はあやふやにしてこのままの関係を続けた。

そんな関係が半年くらい続いた時、彼からの連絡が来なくなった。
彼の配信で最近彼女ができたことを知った。
おめでとう!ってコメントしたけど、スマホの画面には涙がポツポツと流れた。

それから彼とは何も連絡をとっていない。
繋がっていたアカウントは全て消してしまった。
もしあの時、私が貴方の気持ちに応えていたらどうなっていたんだろう。

ネットの関係なんて呆気ない。
分かってはいたけど。
今でも花火を見ると貴方を思い出す。
誰にも言えなかった私の恋心が人知れず花火のように散っていった。