「あなたの勉強しようとするその姿勢は、必ずあなたの人生をより良くします」
何か壁にぶつかるたびに、私はこの言葉を思い出す。
そして、同時に切なさを抱える。

「先生は楽しかったです」。先生の言葉を見て絶対に合格しようと決意

小学校6年生、春のことだ。
私は塾側との関係が上手くいかず、それまで通っていた塾を辞めることになった。
中学受験をすると決めていた私にとって、受験学年になって塾を変えるということは大きな決断だった。
本当に良いのだろうかと不安に思ったりもしたが、次に通う塾が決まったこともあり、成り行きに任せることにした。
そうした不安の中で、塾での最後の授業を迎えた。

たしか理科の授業だった。それとなく塾をやめると授業前に先生に伝えて、その日は帰った。
それから数週間経ったある日。
机を整理していた時、1冊のノートが目に入った。
それは、塾で宿題ノートとして使用していたものだった。
いつもそれを先生に提出して帰り際に返してもらうのだが、すっかり中身を確認するのを忘れていた。
何気なしにノートを開くと、ボールペンで先生からのメッセージがあった。

「少しは楽しんで頂けましたか?先生は楽しかったです。あなたの勉強しようとするその姿勢は、必ずあなたの人生をより良くします。元気でね」

たった4行だったが、それを見た途端、涙が止まらなかった。
先生は楽しかったです、の言葉がすごく嬉しくて、こんな自分でも居てよかったのだと認めてもらえた気がした。そして、決して成績の良くなかった私を叱るのではなく、見守ってくれているのだと感じた。

その時、私は、絶対に志望校に合格しようと決意した。
そのメッセージが書かれた部分を切り取って、中学受験、大学受験、採用試験にお守りとして持っていった。

届かないとしても、言えなかった気持ちを12歳の私の代わりに伝えたい

あれから10年が経った。
私は無事、第一志望の中学校に入学した。6年間、順風満帆とはいかなかったものの、やりたいことを見つけることが出来た。
大学では初等教育を専攻した。そして、現在はさらに自分の学びを深めるべく、大学院で学んでいる。

あの後、何度も先生と連絡を取ろうとしたが、塾を辞められてしまったようで、出来なかった。
もう会えない人なのかもしれないと思えば思うほど、やっぱり感謝を伝えたい気持ちが大きくなる。

だから、出せなかった手紙を、今、出そうと思う。
これが必ず届くとは思わない。
それでも、12歳だった私のために、伝えたいと思う。

先生、元気ですか?
私は、先生に救われました。
人生の大きな選択肢にぶつかるたびに、挫けそうになることも諦めそうになることもありました。
でも、その度に先生の言葉を思い出して、頑張ろうと思うことが出来ました。
先生がいたから、自分を嫌いにならずにすみました。
だから、今度は私が先生のような教師になります。
誰かの背中をそっと押すことのできる教師に、そして、先生のように子どもたちを見守る存在になりたいです。
もう会えないかもしれませんが、届けばいいなと思います。

本当に、本当に有難うございました。