心に麻酔をして動いていたけど、身体は素直だった。
「意識ない、救急車呼んで!」
私が初めに聞こえた言葉は副店長の慌てた声だった。
私は他のスタッフに支えられて横たわっていた。
「聞こえる?」
「どこか痛い所ない?」
何度も名前を呼ばれ、何度も言われた言葉。
周りにはたくさんスタッフが集まっていた。

お腹に違和感を覚えてから意識が戻るまで、記憶がまるでない

どうやら私は倒れたらしい。
目の前では同僚の男の子が救急車を呼んでいて、副店長が付き添うという話まで進んでいた。
何が起こってる?

記憶を遡ってみると、そういえばなんとなくお腹が痛いような気がしていたが、自分でやばいと思うレベルまでは全然達していなかったから仕事を続けた。
接客業だから立ち仕事だったので立っていたけど、なんとなくお腹の違和感から意識が戻るまで記憶がまるでない。

話によると20~30秒ほど名前を呼んでも反応しなかったらしい。
どんな風に倒れたのか、どこかぶつけたのかすらもわからない。

救急隊員が到着した頃には意識は戻っていたが、そのまま救急搬送された。
初めて救急車に乗るなぁ。意識あるのに運ばれるの恥ずかしいな。救急車の中はこうなっているんだ。救急隊員の人は優しいな。そんなことを思っていた。

ここから逃げれる。自分のせいではない形で、仕事を辞めたいと思った

結果的には迷走神経反射で倒れたとのことだった。
もともと迷走神経反射を起こしやすく、何度か家で激痛を感じると倒れるということはあったが、今回は予兆もなしに私は倒れた。
「多分もう限界だ」
心身ともにここが限界ラインなんだと感じた。

ストレスは溜まっていた。身体もしんどさはあった。頭が回らないというか考えることを拒否している感覚でもあった。
それでも仕事に行ってたのは、もうこれ以上誰にも迷惑をかけられないと思っていたからだ。
結果、たくさんの人に迷惑をかけた。
でも内心どこか、職場で倒れてよかったとも思っている自分がいる。
もう限界だとみんなに表現できたのだ。ここから逃げれる。そう思った。
もう脳が正常ではなくこのまま何か大きな病気にでもなって、仕事を辞めなきゃいけないとなればいいのに。
私は自分のせいではなく仕事を辞めたいと思う、ずるくて醜い人間だった。

麻酔が切れるその前に。自分から色々動いてみようと思う

休んでる間色々考えて、私は心に麻酔を打って無理矢理仕事に行っていた。この答えが一番感覚としては近い気がした。
でも麻酔は切れる。時間が経つと心が痛む。そしてまた麻酔をして感覚をなくして仕事に行く。その繰り返しだった。それももう限界のようでなす術がない。

どうしようかなぁこれから。
友達とも遊びたいしなぁ。お金は必要だよなぁ。
掛け持ちや時給の高いところで死ぬほどバイトして一旦少し休む?いや、休んだら多分ダメになってしまう。
でも後ろめたくなく、遊びたい。
やっぱり仕事はしないといけないな。

辛いと言ったら親、兄に心配をかけるから辞めて次の仕事を見つけたら報告しようかなぁ。
そんなことを考えてるうちに、また次の出勤日がくる。
とりあえず心に痛み止めを効かせて、おはようございまーす!と元気に行ってみるか。

天職はきっと誰かが教えてくれるわけじゃない。
ヒントは与えてくれるかもしれないけど、動くのは自分だから色々動いてみようと思う。
麻酔が切れるその前に。