私には、小学生の時から好きな推しが3人いる。タイプは皆バラバラ。だけど飽き性な私が飽きないのはこの3人だけ。
今回話をするのはその中の1人。
この子は唯一会ったことがない。かつ唯一、二度と会うことが不可能な子だ。
それなのに、諦める事が出来ない。
実は1番最初の推しだから尚更なのか。だからこそ私はこうして書き残している。

あの子と私の距離は、常に全力疾走ではなくつかず離れずな感じ

推しという単語も何だか雑なので、あの子ということにしよう。
離れた時期もあれば楽しんでいる時期もあって常に全力疾走ではない、つかず離れずな感じだった。
楽しんでいる時期があったと書いたけど、自分が小さかったり周りの目が気になって、応援なんてものは今思えばまともにできたものではなかった。

そうそう、あの子と言うのはアイドルだ。
忘れられないとか言うくらいだ。それはそれは綺麗な子だった。あくまで私的に。
でもクラスで目立つ方でもない私は、アイドルそのものに綺麗という感情を持つことも許されないような気持ちだった。クラス上位の女の子があれやこれやと言う世界。
実際にあの子ではなかったが、「お前がこの人を好きになるな」と言われたことはある。

たまにひっそりあの子がいたラジオを聞いた。ひっそり新曲情報を仕入れた。グループはCMに何気恵まれた方だった為、新曲の仕入れは今思えば安易な方だったのかもしれない。私が好きな違うジャンルとも関わりがあって、興味が薄れても新曲情報は毎年必ず入ってきた。

卒業後のあの子は、同一人物かと思うほど、別人に変わり果てていた

それから月日が経った。大学受験が落ち着いて、部屋にあったCDを再生してグループに再熱した。CDもDVDも沢山買い漁り、当時以上の熱量で楽しんでいる。

暫くしてからようやく気付いた。
「あぁ、あの子本当にいない」
今まで声するな~とぼんやり聞いていたあの曲には、もういなかったってことか。どんな幻聴とも思うが贔屓目でそういうこともあるよねと呑気でいた。
そうだ。ついでにあの子を見に行こう。
唖然とした。誰だ。誰?本当に私の好きだったあの子なのか?理解が追いつかなかった。私の贔屓目だろうが、全くの別人に変わり果てている姿がそこにはあった。
あの子以外にも色々なアイドルを見ている為、卒業後に何かを始めるケースは珍しいことではない。それでもビックリした。

同一人物だよねと言い聞かせながらファンクラブに入った。しっくり来ない。
周りのファンの熱狂に対して1人取り残されている。私が見たかった物ではなかったからだ。
上手い下手の前に、心がこもりまくったでかい感情をぶつける愉快な歌い方。その愉快というキーワードにも言えるが、何よりも楽しそうである所が私は好きだ。
他にも元気いっぱい。でも時に憂いを帯びている……可憐な表情の多さ、衣装の着こなしの良さ。挙げたらキリがない。
それが全くなく、ただただ無表情でのっぺらとしている。悲しかった。
「楽しそう」が伝わらないあの子はもうあの子ではない。あの子は一体どこへ行ったのだろう。

周りの目を気にせず好きと言えたら、1度はあの子に会えていたかも

グループに月が題材の歌もある事だから、かぐや姫みたいに月にでも帰りやがったか。それぐらい書いてでもいないとやり切れない程悲しかった。
ちなみにかぐや姫は月に帰る時に、地上の記憶が全てなくなっている。
すると今度は本当に月に帰ろうがそれはそれで、私が好きだったきらきらしていたあの子は、そのきらきらを振り撒いた記憶があの子本人にはないということになる。こんな寂しい話どこにあるんだ。
悔しかった。何よりも自分に腹が立つ。

昔の私は今以上に周りの目を気にして何も言えなかった。もしも好きと言えたら最初に上げた、小学生から変わらず好きなあの子以外の推し2人のように1度は会えたのかもしれない。
0回と1回はかなり違うと思っている。
結局、自分の「周りの目が怖い」という勝手な思い込みのせいで全部ダメにして後悔しているだけだ。

あの子はお世辞でも人気があるとは言えなかった。だからこそ小学生でも書けるたった数文字の「応援しています」と書くだけでも、言うだけでもきっと力になれたはずだ。
何なら私があの子に書きたかったことは、それだけしかない。