私の執着は我ながらすごい。
今年の四月にかがみよかがみにエッセイを投稿し始めてから、私は約半年間、ほぼ毎月エッセイを書いてきた。その私が、この一ヶ月間、初めてエッセイを一本も書かなかった。

それはなぜか。なぜなら、記念すべき私の一本目のエッセイを書くきっかけをくれたある雨男に再会してしまったからである(彼との最初の出会いについては私の一本目のエッセイを読んでほしい)。

長い期間苦しまされた雨男との再会は、あっさりと果たされることに

今年も夏がやってきて、一年という時間が経っても、飽きずに去年の梅雨の間に起こった一連の出来事に思いをめぐらせていた私は、「去年は頑なになって彼に色々と押し付けていた私にも非はあったな」などと感傷に浸ってしまい、なにを血迷ったか、ある日、彼にLINEを送ってしまったのだ。我ながらおもしろいと思う。もはや執着しかしていない。

そしてさらにおもしろいのが、それに電話で応えてきた彼だ。そこからなんとなく共通の友人を交えて会う約束が取り付けられ、あれだけずっと長い間、恋焦がれ、時には怒り狂い、涙を流し、苦しまされた雨男との再会が、あっさりと果たされてしまった。なんということだ。

半年ぶりに会った彼は、ほとんど変わっていなくて(そりゃそうか)、私が最初に惹かれた、あの独特の雰囲気を身に纏っていた。
ちなみにその独特の雰囲気とは、健全な感覚を持つ人々からすると、一瞬で「この人はやばい人だ」とわかる雰囲気なんだそうだ。世間一般に言う、いわゆるクズ男の持つ雰囲気らしい。
しかし、私はそこに惹かれてしまうのだ。我ながら危ない趣味をしていると思う。私にはおそらく人間として何か大きく欠落しているものがあるのだろう。

夢にまでみた彼との時間。会いたかった人と会えることに感じた喜び

雨男との再会パート1は、私の住んでいるシェアハウスでのホームパーティーだった。彼がステーキを焼くと言うので、まずはお肉とお酒とその他もろもろを買い出しに行った。
スーパーの中で、落ち着き払ったふりをして彼の隣でカートを押しながら、内心私の心は踊っていた。夢にまでみた彼とスーパーで普通に買い物をしているなんて、一年前の自分に教えてあげたかった。

シェアハウスに戻ってからも、夢のような時間(その間、私は外側では一貫して平静を装っていた)は続いた。ずっと会いたかった人の隣で、玉ねぎを切る日が来るなんて!しかも、「指切らないでね」なんて優しい言葉もかけてくれる。その間、心の中で、何度よくやった自分、と自分の肩を叩いていたかわからない。
出来上がった料理を、彼は私の隣で、おいしそうに食べいた。もう、それだけでよかった。

夜になって、彼は、共用リビングのソファで眠り始めた。他のハウスメイトと深夜まで語り合っていた私は、そのハウスメイトが自分の部屋に引き上げ、リビングに彼と二人きりになると同時に、彼のそばにそっと移動した。

大好きなのに、大嫌いで、ずっと会いたかったけど、もう一生顔も見たくないと思っていた人が、まつげの数が数えられそうなほど近くにいるのが不思議だった(いや、自分で招待したのだけれど)。と、次の瞬間、彼がおもむろに目を開けた。

「びっくりしたー」

と、彼は言ったんだったか、それともニヤッと笑ったんだったか。もう思い出せない。

幸せを感じた時間。誰もいないリビングでのキスはドキドキした

しかし、彼は目を覚まして、それから朝が来るまで、積もる話に花を咲かせた。積もる話と言っても、ほとんど彼の失恋の話だったけれど。そう、彼は私を捨てた直後、私の目の前で、別の同僚の女の子に猛烈なアプローチをし始めたのだった。
彼に遊ばれたことよりも、実際そちらの方が100万倍こたえた。結局彼の恋は片想いに終わっていたのだけれど、その恋の詳細を数時間にわたって聞くことになった。

変だと言われるかもしれないけど、そんな話題でも幸せだったのだ、彼と話している時間が。いつも何を考えているのかよくわからなかった彼のことを、少しでも知ることができているような気がして。

そのうち、おもむろに彼が私の頭に手をのせて撫ではじめた。ああ、そうだ、私は長い間これを求めていたんだ。そう思った。彼の手は大きくてあたたかかった。
そして、誰もいないリビングで、今にも誰かが入ってくるかもしれないドキドキを感じながら、キスをした。何度も何度も。

ミスター雨男の雨男ぶりは健在で、その日は朝から土砂降りの大雨だった。というか、台風が関東地方を通り過ぎようとしていた。大雨の中、近所の喫茶店に行って、積もる話の続きをした。喫茶店に行く途中で着ていたカーディガンが濡れてしまったので、彼のパーカーを借りた。紺色のパーカーだった。

彼にLINEを送り、ぱったり連絡がなくなるまでの期間は約2ヶ月

二回目の再会は、それからちょうど二週間後の金曜日だった。もうすぐ引っ越すという口実で(引っ越すのは事実だったけれど)彼にもう一度遊びに来てもらい、私が作った料理を食べてもらった。手羽元と大根の煮たやつと、もつ煮と、キャベツの塩昆布和え。
おいしい、ともなんとも言わなかったけど(そんなこと言うわけがないのだ、この人が)、彼の箸が進んでいる様子を見ているだけで十分だった。

その夜、彼を駅まで送りに行って、一度は改札で見送った後、そのまま彼に着いて行ってしまった。そんなつもりではなかったから、サンダル履きでスマホしか持たないまま。池袋西口の、場末感の漂う、薄暗くて汚くてうるさいホテルでセックスした。この夜も、雨が降っていた。

真夏のあの日、彼にLINEを送ってから、約ニヶ月が経った。その間の一ヶ月は、時たま彼から電話がかかってきて(決まって酔っ払っている時だ)、高校生みたいに深夜まで電話したりもしたけれど、二ヶ月が過ぎた今、それもぱったりなくなった。

今思い返すと、去年もだいたい二ヶ月くらいで彼との関係が終わっていた気がする。

賞味期限付きの関係。今度会うことがあればきっと伝えるあの言葉

今年再会して、わかった。彼とのカンケイは、つくづく、二ヶ月という賞味期限付きのカンケイなのだ。
彼と私は、今生においてそういう巡り合わせということなんだろう。

雨男との話に、この先また続きがあるのかないのか、それは私にもわからない。でも、また会うことがあれば、その時はきっとまた雨が降っているだろう。そして私は傘をさして立たずむ彼にゆっくりと近づき、彼を見上げてこういうだろう。

やっぱり今夜も雨ですね、と。