私には3歳年下の妹がいる。よく男兄弟のケンカは激しいというけれど、女どうしのケンカもなかなかである。

小さい頃、よく妹と些細なことでケンカをしていた。お菓子や服の取り合い。ちょっとした冗談を言っていたのが、ヒートアップして口ゲンカになり、叩き合い、蹴り合いなんてこともしょっちゅうだった。

親に怒られ、その度に和解して、もうケンカはやめとこうと思うのだが、忘れたころに気づけばまたケンカしていた。

どうしたら妹にケンカで勝てるのか。T V番組を見て、私はひらめいた

妹は強かった。振り下ろされる拳には勢いがあり、パワーも凄まじく、気迫だけでも押されていた。そしてとうとう妹にケンカで勝てなくなってしまつた。

叩き合いをすると、倍の力で叩かれる。蹴り合いをすると、倍の力で蹴られる。気づけば、背丈も妹に抜かれていた。下克上の世がきてしまった。戦をすると、私は負け続ける。

私は考えた。どうすれば勝てるのか。

そして私は悪いことを考えてしまった。
あるTV番組で、お笑い芸人の頭の上にポカーンと大きなタライが落ちてきたのだ。

それを見た私は、ケンカをしたときに何も知らずに階段を上がってくる妹の頭に狙いを定めて風呂場で手に入れたタライを落としてしまった(良い子は真似しないでください)。

そのあとは、母にものすごく怒られた。
妹の頭には、ぷくっと、たんこぶができていた。

「あんた、やり方が卑怯やわ。あと、これ、下手したら殺人事件になるからな。ベランダから植木鉢とか鉛筆を落としただけでも、下にいてる人の頭に当たったら大変なことになるんやから!!」

説明をされて、私はぶるぶると震えた。
妹が死ぬのは、あかん。それは、あかん。
「ごめんなさい……」
私は妹にアイスノンを渡して、謝った。 

妹は、私が前を先に歩くだけで救われていたと言った

あのとき、どうしてタライを落としたのか。
ただ妹に仕返しをしたかったから?

どうにか妹に追いつきたくて。手が届かない遠い妹に振り向いてほしくてやったのか?
いや、それでもダメなことだけど。
……反省。

ーーあれからしばらくたち、お互い大人になった。
さすがに暴力を伴うケンカはもうしない。
口ゲンカもしばらくしていない。でも相変わらず部屋は一緒で勉強机が2つ並んでいる。
そして他愛もない会話をするのだ。

ふと振り返って私は姉らしいことを妹にしてきただろうかと思った。 
体調を崩して休職中、家にいたときもずいぶん苦労をかけて申し訳なかったと思う。

一度落ち着ついてから妹にさらっと聞いてみたとき、私が前を先に歩くだけで救われてたと言われた。小学生のときも、私のランドセルの後ろをついて行けばいいから心強かったと。
ふーん、そういうものなのかなあ。私が行く道は失敗だらけだったけどなあ。

付け加えて親にどうしたら怒られないか、私が怒られている姿を見て学んだとも言われた。
おいっ、それは……。
まあ、役に立ってるならいいのかな。

家族で年の近い姉妹だからこそ、気も遣わず、本音をぶつけ合い、好き勝手にやってきた。
母に昔、言われたことばを思い出す。

「ケンカばかりしてるけどな、大人になったらきょうだいで助け合うんやで。親が死んだらな、あんたらしか、おれへんくなるんやから。家族なんやから」

いつかお互いどちらかが、一人暮らしをしたり、結婚したりして実家を出るときが来るだろう。そのとき、急にさみしくなるのだろうな。

妹が仕事で悩んでるとき元気が出ればと妹の机の上にお菓子を置いたのだが、好みじゃなかったらしい。おせっかいだってさ。うむ、難しい。でもなんかそれを正直に言ってくれるのも妹らしくていいかもなあ。

妹よ。あのときタライを頭の上に落としてごめんね。