高校2年生の終わり、冬が明けるかどうかの朝の冷えた廊下で、君に渡した手紙。
君が体調を崩した上に、私が病んでしまった2週間。1年半の中でそれまでにない気まずさに耐えきれず夜中に書いた手紙。勢いで書いた手紙。

「それでもやっぱり好き」と書いたもう一枚は入れずに彼に渡した手紙

内容は、受験に集中したい、人として好きだけど恋人として好きかどうか分からない、そんな内容だった気がする。
無地の封筒に入れて渡した。彼はただの手紙だと思っているだろうけど、中身を知っている私だけ気まずくて、渡してすぐに教室に戻った。胸が苦しかった。
それはきっと受験でも、自分の気持ち分からなかったからでもなくて、相手の気持ちが離れてしまうくらいなら自分から離れよう思ったからだろう。だから、私は「それでもやっぱり好きだよ。一緒に受験頑張ろう」と一行だけ書いたもう一枚は封筒に入れなかった。渡せなかった。

彼と私は、一年生の時同じクラスだった。
よく喋る私と真反対で、無口だけど、ちゃんと自分のある彼がとてもキラキラして見えた。私にないものを沢山持っている彼にどんどん惹かれた。
文化祭の準備で仲良くなり、花火大会にも行った。文化祭最終日、おやつに「お疲れ様!楽しかった!」と小さなメモに書いて貼り、渡した。初めての手紙だった。
その後、人生で初めて告白した。無事成功。それから派手ではないし、SNSにも載せない、2人だけの、2人らしい時間が始まった。

彼に1度だけもらった手紙は、嬉し泣きして枕元に置くほど嬉しかった

私は手紙を書くのが大好きだ。そもそもこのデジタルの時代に、レターセットや、特に封筒を買って、手書きで書くという行為が好きだった。
好きな人じゃなくても友達にも渡していた。すこし重いだろうか、とは思うものの、誕生日や、たまに記念日、なーんでもない日でもかわいいレターセットを見つけると1番に書いて渡していた。
かといって、彼から手紙を貰うことはなかった。しかし、1度だけ私の誕生日にプレゼントと一緒に手紙が入っていた。私の好きなキャラクターの手紙だった。
手紙好きの私が予想するに、誕生日用の1枚入りではなくて、レターセットの方だろう。そんな所にも、また貰えるのかなとワクワクした。
彼の丁寧な字の下には、鉛筆の下書きと思われる少し雑な字が透けていた。隣の席で見ていたノートの字だった。すこし見過ぎではないかと思われるかもしれないが、意外と乙女は見ている(はず)。
内容はよくある誕生日メッセージだった。しかし最後の1行は「最初の彼女でよかった」だった。お祝いの言葉じゃないじゃないか、と笑いながら読んだが、嬉し泣きするほど嬉しかった。枕元に置くくらい嬉しかった。

私は、彼が好きだ。今ハッキリと言える。彼以外考えられない

大きなケンカや、サプライズなど波のあるカップルじゃなかった。まさに安定老夫婦。
好きなバンドの話、昨日の夕焼けの写真、散歩に付き合ってくれる所、カラオケのフリータイムの時間フルで2人で歌いきるところ、皆が知らない彼を知ってるだけで嬉しかった。
彼は愛情表現をほとんどしなかった。なんで付き合ってるのとよく聞かれた。よく分からない、と言われるタイプだと思う。私も分からない。
LINEは苦手と、週2回の寝る前の電話が2人の時間だった。しかし私はもっと高校生らしい恋愛もしたかった。欲張りだ。段々恋人として私は必要なのか問い始めるようになった。
そのタイミングで彼が体調を崩し、学校を休んだ。私も病んだ。2人同時にダウンは初めてだった。私はぐるぐると回る思考をそのまま手紙にした。夜中に書いてしまった。細かいところまでは覚えてない。最初に戻る。

私は、彼が好きだ。ハッキリと言える。
彼以外考えられない。
君以外考えられない。

あの時渡せなかった手紙はまだ引き出しにしまってある。冬が明けたら、君に渡せるかな。それとも小さなメモにお疲れ様!と書いて渡そうか。
やっぱり好きだよ。お互い受験頑張ろうね。