私は小さな小さなワンルームの角部屋で一人暮らしをしていた。
地元東北から関東に就職して2年。
雪の欠片さえ降らない土地が確かに存在し、そこが自身の居場所となっていた。

2年の間に徐々に陰湿になるストーカー被害。気持ちが安定しなかった

アパートの更新が刻一刻と迫り、ぐずぐずと煮え切らないまま秋を通りすぎて季節は冬に。
当時私は小さなストーカー事件にあっていた。
夜中のピンポンダッシュからはじまり、小さな小窓からカーテン越しに視線や人影を感じる、最初はその程度だった。

一人住まいをはじめた2年の間にそれらは徐々に陰湿になっていき、最終的には自転車のサドルを炙られたところで人生初の被害届けを出した。
私は徐々に生気を吸われていくような感覚に陥り、ひどい睡眠不足に悩まされた。
家賃も格安なわりに部屋もきれいで、駅からも近く気に入っていたが、私は結果的に更新を辞めて引っ越すことにした。もっとはやくそうするべきだった。
私は精神的に気持ちが安定していなかった。
それらに加え、当時交際していた彼氏から酷い振られ方をしてますます病んでいた。

高校時代の友人からラインが。ハッピーな内容を期待したけど…

そんな折、高校時代の友人からラインがきた。
「久しぶり~!元気?」
「最近どんな感じー?」
私はそんな明るくてハッピーなラインを期待した。
とても久しぶりの連絡だった。
たしか、彼女は地元に就職したが、現場が合わずに転職したと彼女のなにかのSNSで見たような気がした。

それすらも曖昧なのは、自分の中にある器が溢れそうになっていたからだ。
自分を守るためにいっぱいいっぱいになっていて、SNSを開く余力さえなかった。
あまりよくない事がお互い続いたせいもあり心身ともに疲弊していたので、癒されたかったのかもしれない。

記憶にある限りの友人は仲良しグループの一人で、グループ内でもお互いにマイペースなところが気が合う。
私は人付き合いがあまり得意なほうではなく、狭く、浅くの友人とのつきあい方をしていた。

高校が実家と離れていたのもあり、週末もしょっちゅう遊べる距離にはなかったし、友人も大事だが私には読書や文を綴る趣味のために、部屋に籠る時間が山ほど必要だったのだ。
それでも帰省すれば遊ぶし、時々連絡もするし、SNSでお互いに反応しあったり。
私にはそれで十分な繋がりと思っていた。

およそ1時間にわたる、不平不満のライン。思い出したストーカー被害

「離れてしまえば友達ではなくなるのね。貴方は辛くても楽しくても、なにも伝えてくれない。私はもう必要ないのね」
突然のラインだった。
私は混乱したが、SNSのストーリを開くと、彼女は新しい職場に馴染めずに病んでいるようだった。

かつての友人はこんなメンヘラチックなキャラではなかった。確かに最近はあまりSNSを開いていなかった。
私は元々悩み事を誰かに相談することなく消化するタイプの性格。
彼女のラインはおよそ1時間にわたり、自分の存在意義や私への不平不満が綴られた。
私はただただ唖然とし、指先をキーボードに置いたままなんて返信すればよいのか悩みに悩み、その間にも絶えず彼女のラインは送られてくる。内容はだんだん過激になっており、まるであのストーカー被害を思い起こされるような酷似した環境に私は再び置かれた。

「自分でやりながら興奮して止められなくなっている」
交番に駆け込んだ時に警察がアパート周囲を現場検証しながらいい放った言の葉が、ふいに脳裏をよぎる。

私はとりあえず、シャワーを浴びてすっきりとした。シャワーから上がるとすでにラインは落ち着いていた。毒を吐いたらスッキリしたらしく最後のほうは謝っていた。途中から私がシャワーを浴びに行ってしまい、既読が着かなくなったせいで不安になったのか、電話まできていた。

暖まった指先をキーボードへ。人生初めて、友人を断捨離した日

私の中でナニかがパキっと折れた音がした。シャワーで暖まった指先をようやくキーボードにのせると、するするとボードの上で指先が踊る。
「離れていても友達は友達。距離程度で不安に私はならなかった。ただ、指先だけで毒をはいたり、人を傷つけしまう友達ならいっそいないほうがいいよね。私は楽しかった、貴方と友達になれたことは後悔しない。今まで友達をしてくれてありがとう」
それからの彼女は私に沢山謝ってくれた。

それから他のグループメンバーを味方につけて、私に許すように懇願した。
一時の過ちだった、と友人たちはどっちつかずに仲裁に入ったが、私は折れることが最後までできなかった。

私たちはついに距離ならず心までも離れてしまった。
私が友人を断捨離してしまったのは、それが初めてだった。
私の中にそんなに激しい一面があったことに、周囲のみならず私も驚いている。
お互いに病んでいたし、それゆえにお互いを思いやるだけの気力がなかった。
私には毒を吐く力も、誰かに八つ当たりする気力もなかった。
突き放し、シャットアウトすることが私のせいいっぱいの毒で八つ当たりだ。

私の毒はしばらくは彼女を孤毒という毒で侵し続け、友人談によれば、今は心身ともに安定し私と千切れた縁を結びたいと思ってくれているとのこと。
私は彼女の何もかも受け入れる友人にはもうなれないし、私のような曖昧な友人の存在はかえって彼女を不安にさせるばかりだ。
友人という一席からは退くことを固く心に決めた。
彼女との思い出の礫を後生大事に、そして彼女のこれからの人生に幸が多くあることを望む。一人のかつての友として。