私は、女だから県内一の高校に進学できなかった。県内で一番偏差値の高い高校は男子校。毎年東大進学者数でも、関東の公立校では上位に入る名門校だ。
私は県内トップのその高校に、「女である」という理由だけで進学できなかった。
高校2年の最初の模試で「1位」を取り、私を取り巻く状況が変わった
私が最初に女子の教育格差を感じたのは、この事実を自覚した時だったと思う。女子が入れるなかで一番偏差値の高い高校は女子校で、でもその高校は進学実績などで比べると県内トップの男子校には及ばなかった。
一番の高校に入れないなら、別に頭の良い高校に行かなくてもいいと思い、私は市内の公立校では偏差値で上から5番目、共学校では1番目の高校に進学した。
「偏差値」のことをいろいろ書いたが、私は特段「すごく勉強ができる」というタイプではなかった。私の周りを取り巻く状況が変わったのは高校2年生になって、クラスが文理に分かれてからだ。私は、2年生の最初の模試で「学年1位」を取ってしまったのだ。
当時私の通っていた高校では、定期テストや模試のトップ20までの順位表を教室に貼り出す慣習があった。学年には1年生のときから、常に学年1位だったSくんという男の子がいた。2年生のクラス替えで、クラス替え担当だった担任いわく「ノーマーク」だった私はその子と同じクラスになっていた。
担任が模試の結果を返し終わり、教室の前方に順位表を貼り出す。クラスの目立つ男子たちが「今回も1位はSさんだろ~」と言いながら貼り出された順位表に近づいた。自分が1番を取ったことは信じられなくて、すごいことなはずなのに、このとき私の脳内を占めていたのは「どうしよう……」という感情だった。
その瞬間、彼らが言っていることが事実ではないことを知っているのは、1番を取った私と、1番を取り損なったSくんだけ。順位表が彼らの目に映った瞬間、私は人生で初めてこれが「場が凍りつく」ということなのかと思った。そこからクラスでは誰も大きな声で、この模試の結果に触れることはなかった。
私は友だちの前で勉強に関して「本音」で話すことを封じられていた
そこから高校を卒業するまでの2年間、私は何度か学年1位を取った。3年生になってもSくんとは同じクラスだったけれども、彼はなかなか私とは話をしてくれなかった。
私が初めて学年1位を取ったあのときの出来事が尾を引いているのは確かだった。順位表を見に行った男子たちとも、3年生になっても同じクラスだった。なんとなく、私と話すときは遠慮がちな彼らを見て、やはり男子は自分より「できる」女子に後ろめたさみたいなものがあるんだなと思っていた。
私の成績の良さに引け目を感じていたのは男子だけじゃない。むしろ、仲の良い女の子たちの方が露骨だった。
テスト前夜復習が終わらず、「あんまり勉強できなかった」と不安をこぼすと、「そんなこと言ってK(私)はできてるんでしょ」と言われた。テストが終わって結果が返ってきて、思ったような点数が取れず、落ち込んでいることをこぼしても「それでもKのは良い点数でしょ」と言われた。いつしか私は仲の良い友だちの前でも、勉強に関して「本音」で話すことを封じられていた。
勉強のことでないがしろにされた私からすると、女子校も共学も地獄?
男女別学についてはいろいろな意見がある。女子に関しては女子校のほうが男子の目を気にせず伸び伸びとできる分、成績が良くなるという研究結果もあるという。でも、結局、男子からも女子からも、「勉強」のことでないがしろにされた私からすると、女子校も共学もどっちも地獄だったのでないかと思う。
ただ、私は学校で埋もれなかったおかげで、2、3年で担任だった先生にとても目をかけてもらえ、塾に行かずに自学だけで東京の名門と呼ばれる私立大学に進学できた。たぶん、それなりに偏差値の高い女子校で埋もれていたら、今の私はいなかったと思う。
当時は針のむしろのようで、10年経った今でも思い出すと涙が浮かぶけれど、私はあの高校に行ったことを後悔はしていない。でも、「女だから」という理由で進学する高校が限られるなんてことなく、もっと自由に自分が学ぶ場所を選べる子どもが増えると良いな。