話した最後の一文を聞いて何となく察してしまった、彼の気持ち
「今度友達が結婚するんだけどね、その友達の奥さんも僕の知り合いで世間って狭いな~って思ったんだよね」
定期的にする電話でそんなことを話し出した彼に「ふーん……すごい偶然だね!」と、2割本気で8割テキトーな返答をしてしまう私。
バイト、インフルエンザの予防接種、サークルのオンラインお話会をなんとかこなし、加えて生理1日目を運悪く迎えた体は自分の想像以上に疲労困憊していた。それでもやっぱり好きな人の話を聞いているのは心地よい。
すごくテキトーな相槌にすごくテキトーな返ししか出来ていない自信しかなかったが、それに気づいているのかいないのか、特に何も触れずに彼はそのまま話を進めた。
「僕、ちゃんと締切までに出席することをLINEで伝えたんだけど、たまたま連絡に気づかなかったらしくて、欠席だと思われてたのね。でもそれに気づいた友達がめちゃめちゃ謝ってくれて、招待状をわざわざ奥さんも連れて2人で家まで届けにきてくれたんだよ」
めちゃめちゃいい友達じゃん、と心の中で思う。
「それで少し話したんだけど、2人すごいラブラブで……なんかちょっと、結婚っていいなって思っちゃった……」
私はこの最後の一文を聞いて、なんとなく察してしまう。
彼の気持ちを正面から肯定はできなくて、つい素っ気ない返答をした私
彼は結婚願望があって、その結婚で思い描く相手はおそらく自分なのであろうことに。でもその時私は特に興味がなさそうに、
「へ~。そうなんだ~」
としか返せなかった。いや、返さなかった。素直な気持ちとしては嬉しかったのに、それを正面から肯定し、その気持ちを彼に伝えることはどこか拒まれた。
私は今まで彼としか付き合ったことがないから、もう少し色々な出会いを経験するべきなのではないか。私が無意識にこんな人だったらいいなと思う、背が高くて車の運転が上手な人には全く当てはまらない。
彼のいいところはたくさんある。何より私を好きな気持ちが言葉にしなくても伝わってくるし、こんなにも自分を大切に思ってくれる人に今後出会うことがあるのだろうかとさえ思う。
それでも付き合っているのと、結婚するのは訳が違う。
私の親は基本的に仲がいいけれど、それでも割と高い頻度で喧嘩をするし、険悪にもなる。そういう部分を見ると、関係が近すぎるというのは、逆によくないのでは、と思えてくる。
結婚はお互いの関係をあまりに近めすぎるのではないか。それなら私は結婚しなくてもいい。そう思っていたのだ。そう思うから彼が呟いたその一文に素っ気ない返答をしてしまったのだ。
電話を切った後に流れた涙。結婚したいと思えなくても彼が好きだ
それなのに、電話を切った後、彼を思うと涙が出そうになった。
自然な流れで自分の意思を伝えつつも、直球すぎないように、傷つけないように、なんとか勇気を出して、私に話してくれたのかもしれない。そう思うだけで涙が出そうになった。
ああ、私は十分に彼のことが好きなんだなと思う。涙を流し慣れていない私の体は涙目になった瞬間くしゃみを出してそれ以上私の目から水分が奪われることを妨げる。
それと共に感情的になっていた体が少しずつ冷静さを取り戻すけれど、彼を好きだと思う気持ちは変わらない。
まだ、私もやっぱり結婚してみたい、とまでは思えない。結婚願望は、なしに一票を投じる側の人間だ。それでも今度彼に会う時話してみようと思う。
「あの日の電話、私と結婚したいと思ってるって伝えたい気持ちが含まれてたの?」「私、言葉で伝えられなかったけど、とても嬉しかったんだよ」と。
私の察しがただの勘違いだったら、笑うに笑えないけれど。