憧れていた恋が、社会人になってからついにスタート
中学生の頃、吹奏楽部の主人公が野球部と恋に落ちる少女漫画を読んでいた。
まだ恋愛をしたことがなかった私は、それに感化された。よくある話だが、こんな恋愛がしたい!と野球部の彼氏を作ることに憧れを感じていたのだ。スタンドから彼氏を応援する、その光景を想像しただけでもニヤける。
そんな些細な私の憧れ。
高校は野球の名門校に進学したが、野球部とは全く関わりがなかったし、大学は女子大。学生生活でその憧れの恋愛が叶うわけもなく、ごくごく普通の恋愛をしてきた。
そんなこんなで社会人になった私。なんとそこで奇跡が起こった。
入社先に社会人野球のチームがあったのだ。もしかしたら野球部の彼氏が出来るかもしれない……!なんて思ったりしていた。
そして、思ったりしていたことが叶ったのだ!!!
入社前に、何度か行われた内定者研修。2度目の研修から野球部員も参加することになった。そこで同じグループだったのが、お付き合いすることになった彼だ。
高身長で、ガタイも今までに出会ったことがないくらい大きい。でも、話してみると優しさに溢れていて、見た目とのギャップに驚いたのを覚えている。
高校も大学も野球の名門校。県内でも有名な選手だった。
私たちのグループは研修での成績が良く、会社から食事券をプレゼントされた。お互い彼氏彼女がいないし、せっかくだから食事に行こうかという話になり、連絡を取ったり食事をしたりする仲に。
3度目の食事で告白され、もちろん私の返事はYES!一択。ここから私の憧れの恋愛がスタートしたのだ。
理想そのものだった恋は、次第にすれ違い…
練習での出来事や試合結果の連絡が来たり、球場に応援に行ったり、ユニホーム姿の彼をカメラに収めたり、室内練習場でこっそりキャッチボールをしたり、オフの日は会えなかった分思い切り遊びに出掛けたり。
彼が頑張っているから私も仕事を頑張ろうと思えた。私が思い描いていた理想そのものだった。
しかし憧れとは怖いもので、私は次第に、それに縛り付けられていたように感じる。自分が気付かぬうちに、私は彼中心の生活を送っていた。
彼の予定に合わせて埋まっていくスケジュール帳。通話の履歴を見返せば彼の名前しかない。具合が悪いと連絡がくれば、頼まれてもいないのにスポーツドリンクやサプリを買い込み、急いで駅に向かい電車に飛び乗った。仕事や野球で疲れてるからとデートのドタキャンが増えても、「大丈夫!」と受け入れた。頑張っている彼に負担を掛けまいと、自分の悩みや不満は話さず無理矢理飲み込んだ。
こんな日々を過ごしていたら、当たり前のように少しずつすれ違いが増えていく。私自身も我慢することに限界を感じ、結果的に別れを選択することになった。
実際に別れた原因は他にあるが、どちらにせよ時間の問題だっただろう。
一生懸命に漕いでいた船が行き先を見失い、気付いた頃にはボロボロの船の中に水が入り込んできて、どんどんと海の底へ沈んでいくようだった。
誰も助けてはくれない。自分で自分の首を絞めているとはこういうことかと、身をもって実感した。
別れたけれど、幸せを見つけられた恋。人生の大きな財産だ
当時の私はこの人と結婚するのだと思っていたので、自分を蔑ろにしていたのかも知れない。彼と別れてから、自分を見つめる時間が増え、蔑ろにしていた自分の幸せを見つけることが出来た。
なんとなく彼に「自分」を委ね過ぎてしまっていたのだと思う。憧れだった故、等身大の自分ではいられなくなっていたことにも気付けた。
私の憧れは、決して良い結果だったとは言えないだろう。
しかし、その過程の中で、以前より自分自身を知るきっかけとなり、憧れや夢に対するアプローチの仕方、自分を俯瞰して見る大切さ、学ぶことの多い出来事となった。
後悔は少なからずあるけれど、この経験は私の人生の大きな財産となったに違いない!と、心に言い聞かせている。
そして、別れを選択したからこそ、今幸せだと思える日々を過ごせている。そんな自分が、ちょっとだけ好きになった。