恋愛をした事がない私にも、誰にも言えない恋というものがある。
一見矛盾しているだろう。
一見しなくても矛盾しているだろう。
実際、私自身の恋愛の話ではないのだ。だけど、その中身があまりにも衝撃的で、恋愛初心者だった私は季節が何回巡っても忘れられないままでいる。
そして、内緒にしててと言われた約束を律儀に守っている私は、その小説のような恋愛と友情のいざこざを誰にも言えずに罪悪感を抱えながら生きている。

恋愛相談されるうちに相手の好きな人を好きになる、漫画のような展開

その恋愛騒動は、一言で言えば夏目漱石の『こころ』そのものだった。
中学時代、2人のとても仲の良い少女がいた。
ここでは分かりやすく、A子とB美としよう。
私と同じ部活だった2人は、傍から見ても親友と呼ぶに相応しかったと思うし、その2人程ではなくても私自身も双方とそこそこ仲が良かった。
中学も受験が現実感が増してきた頃、A子に好きな人が出来た。
親友で、恋愛経験も多かったB美は1番真剣に相談に乗っていたと私は覚えている。
B美が、A子の恋愛を応援していたことも私は知っている。
だから……B美とふたりきりの時、B美がA子の恋愛相談を、聞いているうちにA子の好きな人を好きになってしまった、と私に告白した時は正直驚いた。
少女漫画で読んだことがあるシチュエーションではあった。
だけど、実際身の回りの知り合いがそうなると「なんで」という気持ちの方が大きかった。
しかも、行動力のあるB美はA子の好きな人に告白してOKを貰い、付き合っているとも言った。
好きになってしまった事を相手に話し、ぶつかり合いながらも共にライバルとして共に全力で恋愛をする……なんて、漫画のような綺麗事は存在しなかった。
B美は、A子はにその事を話していなかった。
現実は小説より奇妙だし、残酷だった。
これが初夏の出来事。

関係ないと言いつつ黙る共犯者の私に、あの日の告白は記憶に居座る

結果だけ言うと、B美は熱しやすく冷めやすい性格だったので、秋が来る前には例の男子とは別れてしまった。
A子は、夏休みを挟み恋愛アドレナリン的なものがなくなったのか、結局例の男子には告白しなかった。

だから、あの裏切りにも近いB美の行動は、B美を除けば私しか知らないのだ。
B美は、A子にあのことを黙ったままA子の親友の立場で居続けた。
同じ高校に行ったA子B美と違い、別の高校に行った私はいつぞやの国語の授業で習った『こころ』の後半部分を見ては彼女らを思い出した。
忘れていた訳ではなかったが、意識しないようにしていたのだ。
まるで、関係ないと言いつつ黙るという共犯者となった私に、忘れるなと言われている様にあの日の告白はそれまで以上に、記憶に居座ることになった。

あの初夏の夕方の部室の懺悔の恋愛をこれからも抱えて行くしかない

ある時、たまたま駅で出会ったA子とB美は相変わらず、密かに起こっていた恋愛騒動の前と同じように横に並んで仲良く話していた。
本当ならば相変わらず仲良いなと思えていたはずなのに、あの騒動が頭をチラついて、B美に「A子にあのこと話したの?」という言葉を飲み込んでその場を後にした。

B美は、今後あの事を話すのかもしれないし、話さずに墓まで持っていくかもしれない。
もしかしたら、今はもう忘れてしまっているのかもしれない。
B美が、あの罪をA子に告白して許されようとも、巻き込まれた部外者でしかない私はこれからを知る権利はなく、あの初夏の夕方の部室の懺悔の恋愛を、これからも抱えて行くしかないのだ。

そんな、私の誰にも言えない、人とは少し違うかもしれない恋愛の話。