ヨーロッパの冬の寒さは厳しい。特に内陸の国々は乾燥しており、布に覆われていない肌から水分と体温を奪っていく。水分を奪われ乾いた肌には、冷たい風が余計に染みる。
友人と大学の卒業旅行に列車で巡った「中央ヨーロッパ」の思い出
高校時代からの友人と、大学の卒業旅行にヨーロッパを周遊したときのこと。
チェコのプラハからオーストリアのウィーン、そしてハンガリーのブダペストを列車で巡る中央ヨーロッパの旅。ちょっと上の世代の人からすると、20代前半の女子2人旅でこのチョイスはなかなか渋いらしい。
中央ヨーロッパの主要都市を渡りながら徐々に南下していくこの旅は、気候の違いも感じられて面白かった。
まず最初のプラハは1番寒く、ニット帽が欠かせなかった。ウィーンへ発つ日には大雪にも見舞われ、10センチほど積もった雪の中をバス停までスーツケースを引きずって歩いたのを覚えている。
続くウィーンでは雪は舞う程度だったものの、曇り空が続いていた。特に夜、教会でのクラシックコンサートからの帰り道はかなり冷え込んだ。
そして最終目的地のブダペストでは、この旅1番ともいえる晴天だった。天気がいいだけで、寒さが和らいだような気さえする。
しかし、これも「そんな気がする」というだけで、やはり寒い。早朝からツィタデッラという小高い丘を登って汗をかいたせいか、風が強いせいもあってか、気温よりも寒い気がした。
厳しい寒さの中、「ハンガリー」で見つけたレストランに入った
2人で「寒い寒い」と言いながら、お昼には何を食べようかと相談して歩いていたときに見つけたのが、とあるレストランだった。どうやらハンガリーの伝統的な料理を出しているらしい。表には看板が出ており、ランチセットと思しきハンガリー語の文字列の中にグヤーシュを見つけた。
グヤーシュというのは代表的なハンガリー料理の1つで、私がブダペストのどこかで必ず食べたいと思っていたものだった。歩き疲れ、どこか暖かい建物内に入りたかった私たちは、そのレストランで昼食をとることを即決し、中へ入った。
店内は、客よりも店員の方が多いといった具合だった。ハンガリー語で何やら話をしていた店員は、私たちを見ると英語で席へ案内してくれた。有名な観光地からもほど近く、英語のメニューもあるので助かった。私たちは表の看板に書かれていたランチセットとミネラルウォーターを注文し、ほっと一息つきながら料理を待った。
少し待つと料理はいくつか運ばれてきた。サラダやパンに続いて運ばれてきたのが、熱々のグヤーシュだった。料理の写真は今でもカメラロールに残っているが、湯気までバッチリ写っている。
ハンガリーの伝統料理「グヤーシュ」が、空腹と疲れと寒さを癒してくれた
私はこのスープを2つの意味で待っていた。1つは、ハンガリーで食べたいと思っていた念願が叶うこと。
もう1つは、この寒さを切り抜ける温かい料理にありつけたこと。冷え切った身体に染みわたるグヤーシュは、空腹と疲れと寒さを癒した。
プラハではクネドリーキ、ウィーンではシュニッツェルやザッハトルテと、道中いろいろな美味しいものを食べてきたが、このグヤーシュの味は格別だった。2人で笑い合いながら、熱々のグヤーシュとその後運ばれてきたパプリカチキンを食べ終えた。
旅行から何年か経った今でも、写真を見るだけでそのときのことを鮮明に思い出す。湯気まで写った熱々のグヤーシュを見ては、あのときの寒さと立ち寄ったレストランのことを友人と笑いながら語り合う。晴天と熱々のグヤーシュも相まって、あの周遊旅行の中で1番温度の高い思い出として記憶に残っているのが、ハンガリーのブダペストである。