ちょっと俺は人とは違うみたいな顔をしていた、年下の彼

彼はアルバイト先の立ち飲み屋のお客さんだった。
いつだったか、たぶん少し冷え込み始めた秋のはじめだったと思う。常連のお客さんに連れられてきた友達。ガヤガヤした、散らかった立ち飲み屋には似合わない、自分の世界を持った男の子だった。
古着屋で買った服を着こなして、身長の割に背伸びした大人っぽい雰囲気。年下のくせにちょっと生意気な口ぶり。レモンサワーを飲みながら1人タバコなんか吸っちゃって、ちょっと俺は人とは違うみたいな顔してた。
けど、趣味の話になった時、ちょっと目を輝かせて嬉しそうに話してきたから、それがなんだか可愛くて、慣れない癖に連絡先を交換してみた。

その後しばらく連絡が来ることはなく、お店にも姿を見せなかった。だけど忘れかけたある日、今度は幼い年相応の可愛い服を着た彼が、今度は1人でまたレモンサワーを飲みにやってきた。
前回は気づかなかったけど、お酒に弱いのか、ちっともあかないグラス、増える吸い殻。結局グラスが空になることはなく、閉店時間になった。
そろそろ閉めるよって話しかけたら、どっか飲みに行く?って言うから、いいよって言ったら嬉しそうな顔して、その後ちょっとふくれて、俺連絡待ってたんだけどって、それがすごく意外で、かわいくて、ついつい気を許してしまった。

関係が変化して欲しいような、このまんまであって欲しいような

その後飲みに行って何を話したかはおぼえてないけど、とにかくたくさん笑ってた。年下なのに背伸びして大人だしって言うのが可愛くて、そのくせ男らしいところもあって、その日からわたしは彼とのLINEが日課になった。

彼は小さなBARでアルバイトをしていた。そのうちお互いのお店行き来して、シフトが終わるまで待って飲みに行くのが当たり前になった。

後々聞いたことだけど、彼は私に一目惚れだったらしい。友達がこっそり教えてくれた。あいついいやつでしょ?真剣に考えてやってよ、照れ屋だからきっと自分から言えないけど。って。いい友達だよね。

その頃には私も少し彼を意識するようになってて、彼との関係もだんだん変化していった。バイトがない日も暇してる?って呼び出しがあったら飲みに行くようになった。終電を逃して歩いて帰ったこともあったし、自転車で2人乗りなんかもした。彼が青春ってこんな感じかな?って言うから、照れくさくて茶化したりして。関係が変化して欲しいようなこのまんまであって欲しいような複雑な気持ちだった。

私たちの関係と彼をなんと呼ぶべきか、いまだにわたしは分からない

だけどある日帰れないね、どうする?ってお馴染みのセリフが飛んできた。いつもなら朝まで飲むか、歩いて帰るのに。ついに覚悟する時かな?って思った。何にもしないからホテルいこっか、ベッドで寝たいって。小さく頷いた私の手を取ってそのまんま慣れた手つきでホテルのベッドに寝転がった。ほんとに何にもなくて、拍子抜けした。遊び人って見た目なのに誠実なんだなって感心したり、ちょっと残念に思ったり。

そんなことを何回か繰り返してそのうち、いいよね?って大人な関係になった。スムーズに進んで、あっという間に超えてしまったライン。期待と不安がまじった朝、いつも通りの彼がいて少し戸惑った。ハッキリさせなきゃって思うのに、関係壊れるのが怖くてきけなかった。でもまた寂しいから会いたいって言われると会いに行く。会えなくなるよりいいよね。数ヶ月そんな関係が続いた。

そのうちわたしは立ち飲み屋をやめて、少しずつ疎遠になった。新しくバイトを始めた私と、部署が変わった彼、すれ違いが増えた。あるときからばったり連絡は来なくなって、でも連絡する勇気はでなくて。そしたら彼にいい人ができたと知った。お幸せにって言葉はもう届かない。

今でも時々思い返す。あの時の私たちの関係は何だったのか、甘酸っぱいようなほろ苦いような、とうとう親友にも紹介出来なかった彼をなんと呼ぶべきか、いまだにわたしは分からないでいる。ただ時々、彼といったBARの前を通って懐かしい、せつない気持ちになるのだ。