今年、金木犀が3度咲いた。
2度咲きはよくあることだが、3度は珍しいらしい。
貴方に貰った金木犀の香水の香りを身に纏いながら、あの時の甘ったるいような、でも冷酷な
長いようで短かった3年間を回顧していた。
あの出会いが私の人生の大きな出会いになるなんて、知る由もなかった
初めて会ったのは、寒かったあの日。
高校受験の日。
新しいことが始まるどきどきに包まれながら、私の後ろに並んでた貴方に話しかけた。
「はじめまして!」
「はじめまして」
こんな些細な出会いが、私の人生の中の大きな大きな出会いになるなんて、知らなかった。
知ってたら出会わなかった。
入学式のあと、学校で貴方のことは見かけなかった。
きっと入試で落ちてしまったのだろう。
そう思っていた。
2年後、高校3年生になったある日。
友達が紹介したい人がいると誰かをを連れてきた。
目の前に貴方がいた。
2年越しに巡り会うなんて、奇跡でしかなかった。私はそう思った。
それから私たちは初めて2人で遊びに行った。
「んー、どっちにしよう」
パンケーキをどちらにするか選べない私に、貴方は片方の悩んでいる方を頼んでくれた。
貴方はそんな人だった。
優しくて、優しすぎるくらいの人。
あなたが言った言葉に、どきどきしすぎて、聞いてないふりをした
プラネタリウム、水族館、映画館。
一緒に古着屋さんへ入ったり、お洒落なカフェでたわいもないことを話したり。
私たちは一緒に過ごせなかった時間を取り戻すように、2人で数え切れないくらいの思い出を作った。
私の誕生日には、細かいお花や飾りを描いた可愛らしいイラスト付きの手紙と、センスに満ち溢れたプレゼントを毎年私のために選んでくれた。
何度も何度も思い出を積み重ねるたび、ただの友達だった貴方のことがいつのまにか気になる存在に変わっていた。
2人でカラオケに行った時、貴方は言った。
「好きな人の前で歌うなんて緊張するなあ」
びっくりしすぎて聞いてないふりをした。
どきどきして。
帰り道もずっとその言葉が何回も何回もぐるぐると頭の中で繰り返された。
もしかして貴方もそう思ってくれているのかな?
期待に胸が膨らんで。
勉強もなにも手につかず、何処にいてもいつも貴方のことを考えるようになった。
はじめてもらった金木犀の香水。きっと貴方も同じ想いだと思っていた
気づいたら、恋をしていた。
でも誰にも言えなかった。友達が好きなんて。
それに打ち明けたところで、貴方と友達ですらなくなってしまったら?
自信がなかった。
だったらこの関係のままで、ずっと居られればいいと思った。
クリスマスの日。
2人とも一緒に過ごす人がいないという訳で、前日ギリギリに会うことを決めた。
2人でカラオケに行って隣に座り、たわいもない話をしながら、一緒にケーキを食べた。
こんなに幸せなことがあるだろうか?
何度も夢かと思った。ずっとずっとこの時間が終わらないで欲しいと思った。
「これからも宜しくお願いします」
そう言ってプレゼント交換をしたときに、あなたから、アクセサリーと金木犀の香水を貰った。
貴方から初めて貰った香水だった。
その日から私は金木犀の香りが大好きになった。
貴方はあまり自分のことを話さなかった。
だから私が貴方について知ってることは少なかった。
頑張って選んだプレゼントも、はっきり言って貴方が欲しかったものだとは断言できない。
それでもよかった。
私は貴方の横にいられるだけで幸せだったから。
貴方もそうだと思っていたから。
毎月のように会っていた。
他の友達よりも何よりも、貴方を1番に優先して。
彼氏ができたと嬉しそうに言う貴方。突然終わりを迎えた私の恋
そんな関係を続けて、3年が経っていた。
いつもの帰り道。
「次いつ会える」
「わかんない」
このとき何となく、もう貴方はわたしを見ていない気がした。
突然のことだった。
「彼氏ができたんだ!」
嬉しそうに貴方は言った。
目の前が真っ暗になった。
私の恋に、突然の終わりが来たのだ。
こんなに好きになってしまった貴方ともう友達になんて戻れなかった。
貴方との思い出の品を整理していたとき、香水だけはどうしても捨てられなかった。
あのクリスマスの日のキラキラした幸せな瞬間と、思い出も捨ててしまうような気がして。
今年、金木犀が3度咲いた。
金木犀が咲くたびに、その香りで貴方を思い出す。
とってもいい香りで大好きだけど、3度も切なくなるのはやっぱり辛かった。
貴方の笑顔を、あなたの声を、言えなかった思いを、思い出してしまうから。