もう一度味わいたい。あの時の味とあの時の私。食べることができたら、あの頃の私をもう一度取り戻すことができるのではないだろうか。
私は幼い頃、外で走り回ったり虫取りをしたり、絵を描いたりママごとをしたりと大勢の友人と遊んでいた。前に出て発表したり、周りの友だちを引っ張っていったり、積極的な性格だった。
そのため、幼稚園や学校終わりにもたくさんの友人を家に招いて遊んだ。多い時は一度に10人以上家に招いた。

学級崩壊や孤独、心ない言葉。人と関わることを避けるように

何もないのは申し訳ないと、母がチョコチップクッキーやシフォンケーキを焼いてくれた。
サクッとするクッキーは甘く、幼い私には少し大きめのサイズがたまらなくよかった。
シフォンケーキはフワッフワで、生クリームをつけて食べると最高に美味しい。

母の優しさの詰まった最高のスイーツは、賑やかな空間をさらに幸せにするものだった。
しかし、小学校高学年から、徐々に人が怖いと感じるようになってしまった。
小学校高学年の頃に学級崩壊があったことから、人間関係の難しさを間近で感じるようになった。

中学校は私立の学校だったため、地元の友だちはほとんどいなかった。進学校だったこともあり、勉強についていくことができず、引っ張っていくことはできなくなった。
自分のレベルの低さと地元の友人がいない孤独感を味わうことになった。

高校の時は、親友だと思っていた友人が、多重人格になってしまい心ない言葉を言われた。
「あなたは誰?」
「あなたのエゴでしょ」
「あなたは優しいフリしてるだけで汚い」
「守ってくれるって言ったのに嘘つき」
心ない言葉を言われるにつれ、さらに人と関わることを避けてしまった。
どれも私を追い詰めていくことばかりだった。

大学生になっても、周りに馴染むことができなかった

そのせいか、大学入学してもなかなか馴染めなくなっていた。
人の目を見ることが怖くなった。人と喋ることが怖くなった。人と関わることが怖くなった。
2人組を作る時、3人組を作る時などは苦痛で仕方なかった。余るのが自分だということが、組む前から分かっていたからだ。
私自身は気にしなかったとしても、周りは私を哀れんだ目で見てくる。そんな状況が本当に嫌だった。

幼い頃の私は、あんなに大勢の友人に囲まれて生活していたのに。何人組を組むと言われたら、私を取り合うほどだった。賑やかで人とも積極的に関わっていく性格だった。
でも、その時の私はもういない。

あのチョコチップクッキーを食べたら、あの頃の私がまた戻ってくるのではないか。
あのシフォンケーキを食べたら、友だちとまた向き合うことができるのではないか。
チョコチップクッキーとシフォンケーキを食べたら、私は、また大勢の友人に囲まれて、人が怖くないと思えるのではないのか。

あのチョコチップクッキーやシフォンケーキがあればいいのに

いや、そんなことはないと、わかっている。戻れないことも、気持ちが大きく変わることもないとわかっている。

私はいろんな経験を積んで、人が怖いと思ってしまうようになった。
今もまだ、怖いと感じることも多い。でも、時間をかけて少しずつ、家族や彼氏を含め、大切な人と大切な時間を共にすることの幸せを感じられるようになってきた。

不安や恐怖心はなくならなくても、私は少しずつ前を向けるようになっている。
ただ、今、大切な人と、大切な時間を過ごす時に、あの時のチョコチップクッキーやシフォンケーキを食べることができたら、もっと前を向けるような気がする。もっと幸せを感じられるような気がする。

あの時のように大きなクッキーには見えないかもしれない。あの時のように周りに大勢の友人はいないかもしれない。
でも、きっと味は変わらない。あの懐かしの味をもう一度……味わいたい。