地元の企業で働き始めて2年程経った頃、一人暮らしの家を探し、「きれいなところがいい」と新築アパートに決めた。
契約書には保証人のサインが必要で、父にお願いすると「分不相応」と言われた。保証人になるからには収入と支出の計画書を持ってこいだの、いつものように細かくてしつこい。

中々サインをもらえず、結局呆れた母が「やらせてみればいい」と半ば強引にサインをもらってくれた。それから2年ほど経ち、私にはやりたいことができた。
お金が必要だったが貯金がない。しかし実家に戻りたいとは言い出せず、荷物を少しずつ運び、とうとう父に言わないまま退去した。

当時の父は単身赴任で、家にいるのは金曜の夜から月曜の朝までだったので、私は週末になると近くのネットカフェに寝泊まりし、退去を悟られないよう頑張った。
けれどそのうち母が話してしまった。ほらみろと思ったに違いない。
いつも近道を教えてもらう。私は別の道をぐるぐると歩き、後からその近道に気がつく。とはいえ自分自身が体験しなければその近道に気づくこともない。困難を体験しその道を振り返ったときに初めて、父が大きな愛をもって、いつも私の目の前に立ちはだかっているのだと気づく。