「お疲れさま!乾杯!」
おすすめは美味しい新鮮なお刺身と、キンキンに冷えたジョッキにそそがれたビール。いつもの居酒屋のカウンター。私と彼は笑ったり、深刻な顔したり、色んな顔をしながらお互いの近況を話す。
そんな2人を見ると、どこからどうみてもカップルに違いないんじゃないか。居酒屋を出た2人はいつも決まった同じラブホテルに泊まって、泡風呂を楽しんで、映画を観ながら飲みなおすんだから。

出会って10年目の彼とは、2人だけの秘密の関係だった

私と彼は出会って10年目になる。私と彼は恋人同士ではない。彼との関係については、私は親友にすら話せていない。私と彼の2人だけの秘密の関係だった。
彼との出会いは当時の最寄りの駅前。お互いまだ18歳だった。私は地元を離れて、都会にやってきた専門学生。彼は、もともとこの場所が地元の大学生。
私は一人で買い物に出かけた帰り道に、駅前でスケボーで遊んでいた彼に声をかけられた。
同じ歳だったこともあって、話は弾んだ。なんとなくお互いのことにすごく興味があって、ついつい駅前で長話をした。
連絡先を交換した私たち。彼から頻回に連絡が来るようになり、家も近くてよく遊んだ。お互いの家に泊まるようになった。いつも会うのは夜。1ヶ月くらい遊んで、体の関係を持つようになった。
私は彼と1週間に1、2回は会うようになり、1年が過ぎた。彼の両親が経営している居酒屋でよくご飯を食べた。彼のともだちとみんなで遊んだりもした。地元を離れた私は寂しくなって、辛いことがあったときには彼に相談するようになった。いつも彼は私の心を前向きにしてくれた。
1年彼と遊んで、私は彼のことが好きでしょうがなかった。思い切って彼に告白をした。でも、彼の返事は「もうちょっと待ってて」だった。

「今は彼女とかいらないんだ」。それが告白の返事だった

告白をしてからも、彼は私と何にもなかったように遊んだ。それから何ヶ月も過ぎて、私はもう1度彼に返事を聞いた。「ごめんな。今は彼女とかいらないんだ」。
私はショックが強くて、もう彼に会うことができなくなった。それから何年も経って、私は専門学校を卒業して看護師になった。そのまま18歳でやってきたこの都会で働いていた。
もう彼のことは、自分の中で忘れたと思っている。振られてから他の人と付き合った。だけど、彼のことを思い出してしまう。どうしても彼が上回ってしまう。
そんな恋愛は上手くいかず、付き合った人ともお別れをしてはまた新しい恋愛に進んだ。
24歳の夏。突然彼から電話がきた。
「久しぶり!元気にしてる?俺、大学卒業してからワーホリに行ってたんだよ!また飲もうよ!」
一瞬で彼との思い出が頭の中から溢れ出てくるほど浮かんだ。そして確かめたかった。私はまだ彼のことが好きなのかを。私たちはすぐに会った。また夜だった。彼は数年前と変わっていなかった。
変わっていたこといえば、私は看護師になったこと、彼は両親の居酒屋を経営していること。もちろん居酒屋で飲むだけでは終わらなかった。私の家に彼が来た。
久しぶりに体を重ねた。なんともいえない、私は心が苦しい気持ちになった。何年経っても恋人同士ではない私たち。だけど、やっぱり私は彼といると安心する。だけど、彼とは恋人同士ではない。
そのときの私は強くはなかった。彼にしっかり自分の気持ちを伝えることもできなかった。もう会わない選択ができなかったし、そうなることが怖かった。

彼と出会って10年。私は地元へ帰ることを彼に告げた

どうしたら、いつまでも彼と楽しく会い続けることができる?弱い私は一生懸命に考えた。そうだ。私の中で彼は恋愛対象外で、お互い都合よく会っている秘密の存在ということにしよう。
そう考えると、いくらか平気だったし、時間が経つにつれてそれが当たり前になっていった。そんなこんなで私たちは出会って10年ほどがたった。28歳になっていた。
いつもの居酒屋。いつものラブホテル。会うのは決まって夜。仕事でも任されることが多くなった私はたまにのそれがたまにの贅沢だった。
「私さ、地元の近くに帰ろうかと思うんだ。コロナでなかなか実家に帰れないことがあって、やっぱり家族のことが心配」。私には決めたことがあった。この都会から離れて、地元の近くへ戻るということ。
彼はびっくりしていたけど、賛成してくれた。そして彼は、なぜ私たちが恋人同士になれなかったのかを話してくれた。
「昔、告白してくれたよね。あのとき俺、ワーホリ行くことも決めてたし、会社員にならずに自分で経営することも決めてたし、そんな不安定なのに付き合うなんて申し訳なくてさ。でもお前と今もこうして繋がってるのびっくりだわ。お互い結婚できるといいな!」
私は思いがけない言葉にびっくりした。結婚相手は私でいいのに。なんて言えなかった。彼は悲しそうに笑っていた。

「結婚することになった」。心の底からおめでとうと思える私がいる

私が地元に帰る1ヶ月前に、彼が昼間に会おうと誘ってきた。
「昼間に会うなんて珍しいね。どうしたの?」
「俺、彼女できたんだよ!1年前から俺のことずっと好きだったんだって」
1年前?私はもう10年も前から、君のことが好きだったんだよ。私は無理矢理笑顔を作って、彼におめでとうの言葉を伝えた。


あれからまた時間が経った。
私は地元の近くへ引っ越し、そこで素敵な将来の結婚相手と出会った。もうすぐ結婚を控えており、今は愛犬と2人の生活を満喫している。もう、後ろ向きな気持ちで彼のことを思い出すことはない。
それくらい、今のパートナーのことをしっかりと信頼しているし、好きだということなんだろう。そんなとき、彼から久しぶりに連絡がきた。
「久しぶり!年内に結婚することになった。お前には伝えとこうと思って」
私も結婚する予定であることを、彼に伝えた。きっと今は、お互いに心の底からおめでとうと思えていると思う。